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温泉水飲用の効果をメタボローム解析および腸内フローラ解析で明らかに

炭酸水素塩泉の人体への影響を多角的に解析

Murakami, S., Goto, Y., Ito, K., Hayasaka, S., Kurihara, S., Soga, T., Tomita, M. and Fukuda, S. (2015) The consumption of bicarbonate-rich mineral water improves glycemic control. 2015: 824395

日本は3,000以上の温泉地を有する世界一の温泉大国であると同時に、入泉や飲泉による湯治の文化が古くから根付いている。さまざまな疾患への予防・改善効果(いわゆる効能)が述べられている温泉の説明書きを見たことがある人も少なくないだろう。これらの温泉の効能は果たして分子レベルで説明できるものなのだろうか。

例えば、炭酸水素塩を含む温泉水は、その飲用によって糖尿病の予防・改善効果が期待されるとの報告があるものの、そのメカニズムは明らかになっていなかった。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程の村上慎之介氏らは、慶應義塾大学先端生命科学研究所の最先端分析技術を駆使して、飲泉が人体に与える影響をより詳細に明らかにすることを目指した。村上氏は健康な成人24名の協力を得て、大分県竹田市の長湯温泉から採取した温泉水(マグネシウム・ナトリウム・カルシウムー炭酸水素塩泉)を飲用する実験を4週間にわたっておこなった。被験者は1週目と3週目には水道水を、2週目と4週目には温泉水を、1日500 mL飲用した(朝食・昼食・夕食の30~60分前に3分の1ずつ飲用)。試験開始前および各週末に血液および便を採取し、血液検査と、血中の代謝物質および腸内フローラの網羅的な解析をおこなった。

その結果、血液検査から血糖管理指標の1つである血中グリコアルブミン値が、水道水飲用期間と比較して温泉水飲用期間で減少することが明らかとなった (19名中16名)。この血中グリコアルブミン値は、14日以内の平均的な血糖値を反映する指標であることから、温泉水の飲用は血糖状態を改善できる可能性があると考えられる。次に、血液のメタボローム解析の結果、温泉水飲用期間では解糖系が亢進している可能性が示唆された。これは、グルコースを消費してエネルギーを生み出すはたらきが、温泉水の飲用によってより強くなることを示唆する結果である。その他にも、温泉水飲用後は血中のアミノ酸濃度が減少しており、これは生体内でのタンパク質分解が抑制された結果ではないかと考えられる。また、腸内フローラ解析の結果から、肥満防止効果があることがマウス実験で証明されているChristensenellaceae科の腸内細菌が飲泉後に増加することが明らかとなった。以上の結果から、今回実験に用いた長湯温泉の温泉水の飲用は、解糖系の亢進、タンパク質分解の抑制、肥満防止効果がある腸内細菌の増加などを介して血糖状態を改善し、糖尿病の予防や改善につながる可能性が示唆された。

本研究は、これまでそのメカニズムが明らかにされてこなかった飲泉の有益効果を、多角的かつ詳細に解析したものであり、温泉療法学に新たな知見をもたらしたと考えられる。また、温泉は地方都市の重要な観光資源でもある。村上氏は「温泉の有益性が科学的に裏付けられれば、地方活性化の材料となる可能性もある。今後も国内の様々な温泉の効果について研究を実施し、その効果のメカニズムを明らかにするだけでなく、温泉研究による地方活性化にも尽力したい」と意気込んでいる。


図1:試験のスケジュール

赤字で示した日に血液および便を採取した。

図2:19名の血中グリコアルブミン値の変化

水道水飲用期間と比較して、温泉水飲用期間で減少した被験者を赤、上昇した被験者を青、変化なしの被験者を灰色で示した。

図3:本研究で示唆された炭酸水塩泉の飲用によってもたらされる生体内での変化

[編集:川本 夏鈴]

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