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微細藻類の群体性・単細胞性の分岐点はどこか?

多遺伝子系統解析によって、両者が比較的最近に分岐したことを明らかに

Munakata, H., Nakada, T., Nakahigashi, K., Nozaki, H. and Tomita, M. (2015) Phylogenetic Position and Molecular Chronology of a Colonial Green Flagellate,4 Stephanosphaera pluvialis (Volvocales, Chlorophyceae), among Unicellular Algae. Journal of Eukaryotic Microbiology 63(3):340-8.DOI: 10.1111/jeu.12283.

バイオ燃料の原料となるオイル産生能力を持つことから、微細藻類に注目が集まっている。微細藻類は水中に存在し、顕微鏡がなければ詳細が観察できない小さな生物だが、その特筆すべき分類学的多様性は多くの生物学者を惹きつけている。微細藻類は基本的に単細胞で活動するが、その一部は細胞外マトリクスなどを介して細胞同士が接着した状態で生活しており「群体」の種として分類される。この群体の種は、生物が単細胞から多細胞へと進化する途中段階としても捉えることができ、私たちヒトのような多細胞生物が地球上でどのように進化してきたのかを研究する上でも意義深い対象であると言える。

緑藻の Stephanosphaera 属は複数の細胞が集合した群体性の微細藻類として知られており、系統的に単細胞性のBalticola属 (バルチコラ)と近縁であると考えられてきた。しかしながら、分子レベルでの解析がなされてこなかったために、果たして分子レベルでも系統的に近縁であるのかは結論が出ておらず、その解明が課題であった。そこで、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程の宗像英仁氏らは、Balticola属とStephanosphaera属の系統関係を分子レベルで明らかにすることを目指した。

まず、世界中の藻類株保存機関から、全ての利用可能なStephanosphaera 属と Balticola属 の培養株を入手し、各株について核遺伝子で系統解析に広く使われる18S rRNA 遺伝子の配列を解読することによって、具体的に何種類の藻類に分類できるのかを調査した。その結果、Stephanosphaera 属は単一種のみで構成されている一方で、Balticola 属は6個の遺伝子型の藻類からなることが示唆された。しかしながら、18S rRNA 遺伝子配列のみでは、その6種それぞれの系統上での立ち位置など、詳細までは結論付けることができなかった。そこで、宗像氏らは核遺伝子および葉緑体遺伝子由来の6種の遺伝子配列にもとづいた多遺伝子系統解析を試みた。しかし、Stephanosphaera属とBalticola属の葉緑体遺伝子配列内には、イントロン領域(最終的にアミノ酸へとは翻訳されない領域)が多数存在しており、遺伝子配列を決定するためのPCR増幅が困難であった。宗像氏はさまざまな反応条件を試行し、イントロンの部分配列を獲得できる条件を確立した。さらに、解析したイントロン配列の情報にもとづき新規のPCR用プライマーを作成し、エキソン領域の正確な配列情報をPCR増幅によって取得する、という作業の繰り返しによって多遺伝子系統解析を行うための遺伝子配列を獲得していった。その結果、Stephanosphaera 属とBalticola属 の内1種(Balticola G1)のみが独立の系統を、残りのBalticola属の5種がもう一つの系統をなすことが統計的に示された。さらに、宗像氏らはこれまでの結果をもとに、進化の過程で各分類群がいつ分岐したかを定量化する手法である分岐年代推定法を用いて、 Stephanosphaera 属とその単細胞性姉妹種の分岐年代を解析した。その結果、この分類群は400-6300万年前に分岐したことが示され、所属するオオヒゲマワリ目の中ではごく最近に分岐したことが示された。

宗像氏らの研究によって、群体性藻類 Stephanosphaera 属(ステファノスファエラ)に最も近縁な単細胞性藻類(単細胞性姉妹種)が特定された。これは、複数遺伝子データの分子系統解析の統合によって初めて明らかとなった。さらに、Stephanosphaera 属とその姉妹種である Balticola Genotype 1(G1)が進化の過程で分岐したのは、群体性の藻類の中でも非常に最近であることを定量的に示された。このことから、群体性藻類ならびに単細胞藻類の間では、遺伝子配列の比較的高い類似性が期待でき、将来的に「単一細胞の生体から複数細胞の生体への進化にはどのような遺伝子が関与したのか」という進化学上の大きな問いに対する新たな知見が与えられると期待される。

(図)

群体性藻類 Stephanosphaera (左上)とその単細胞性姉妹種の Balticola G1 (左下、右上、右下)の形態写真。Stephanosphaeraは複数の細胞が集合した群体性を示す。

[編集:川本 夏鈴]

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