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大腸菌は人工の外来RNAを受け入れ、利用することが可能である!

人口低分子RNAから考察する進化


近年、RNA分子が生物の様々な制御機構において重要な役割を果たしていることが明らかとなってきている。そもそもRNA分子とは、DNAから転写されタンパク質へと翻訳する前の段階の物質である。だが、RNA分子のなかにはタンパク質をコードするのではなく、RNA分子のままで働く「機能性RNA」と呼ばれるものが存在する。

慶應義塾大学先端生命科学研究所の金井昭夫教授らのグループは、未同定かつ多様な機能性RNAがモデル生物に存在することをこれまでに明らかにしてきた。特に、モデル生物の代表例である大腸菌のなかには分子量の小さな機能性RNA (機能性低分子RNA) が数多く存在することを示唆してきた。同時に、これらの機能性低分子RNAは種ごとに配列が異なっており、その進化的保存性が低いことも指摘してきた (新原ら、BMC Genomics 2011)。そこで同グループの野呂技術員(当時)らは、人工的にデザインした機能性低分子RNAを大腸菌に取り込ませた。この人工RNAを利用させることで、大腸菌に新しい制御機構を獲得させることができるのではないかと考えた。すでに同グループは、ランダムな配列を含んだ低分子RNAを発現するライブラリーをスクリーニングすることで、大腸菌の増殖を抑制する効果を持つものが得られることを報告している(小正ら、J. Biochem. 2011)。野呂技術員(当時)らはこの人工RNAのシステムを改良するだけでなく、得られた人工RNAがどのようなメカニズムによって大腸菌の制御システムをコントロールするのかについて解析した。

まず、ランダムな30塩基からなるインサート領域(発現する領域)を含んだ約100塩基長の人工低分子RNAの発現系を構築した。次にこの発現系を大腸菌に誘導することによって約6万個のクローンを作製し、大腸菌コロニーのサイズによって選別した。選別された各クローンについて増殖の様子を経時的に解析することで、様々なレベルで大腸菌の増殖に影響を与えるような低分子RNAを見つけることができた (図1A)。野呂らは、これらの低分子RNAのなかでも強い増殖抑制の効果をもつS-20 RNAに注目し、システマティックな解析を行った。その結果、S-20 RNAは複数の標的mRNA (オペロン) に直接結合することで、標的mRNAの翻訳を抑えることが明らかとなった。さらに、この翻訳の抑制によって重要なタンパク質の量が減少することが、大腸菌の増殖抑制につながっていることが示唆された。つまりS-20 RNAは、大腸菌固有の機能性RNAと同じメカニズムで標的mRNAの機能を抑制していると考えられる。

S-20 RNAをはじめとする人工RNAは、もともと大腸菌のゲノムにコードされていない。もちろん、人工RNA分子を介した増殖抑制機構も生体内に準備されていない。本研究の結果は、ある指標で特異的な人工低分子RNAが大腸菌に選択されることで、内在性の低分子RNAと同様なメカニズムで大腸菌の代謝に影響を与えることができることを示唆している。何よりも面白いのは、大腸菌側に人工RNAを受け入れるシステムが備わっていることだ。このような大腸菌の生物学的キャパシティこそ、バクテリアの早い進化を支える秘密かもしれない。

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図1 人工低分子RNAによる大腸菌の増殖抑制効果と、高い抑制効果をもつS-20 RNAの標的となる大腸菌のmRNA (オペロン)候補

(A) 6例の人工低分子RNAによる大腸菌増殖の抑制効果。Vect. は低分子RNA発現のためのプラスミドベクターのみを導入した大腸菌を示す。低分子RNAの発現をIPTGにより誘導している。(B)強い増殖抑制効果を示したS-20 RNAとその標的mRNA (オペロン)との結合(予測)の模式図 (4例)。各mRNAの翻訳開始コドンAUGをボックスにて囲んでいる。

Noro, E., Mori, M., Makino, G., Takai, Y., Ohnuma, S., Sato, A., Tomita, M., Nakahigashi, K. and Kanai, A. (2017) Systematic characterization of artificial small RNA-mediated inhibition of Escherichia coli growth. RNA Biology 14(2): 206-218.

[編集:川本 夏鈴]

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