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絶滅危惧種「ケンランアリスアブ」の生態にあらたな発見

幼虫をアリ巣中で発見、初の記録に成功

Iwai,H., Horikawa, D., Arakawa, K., Tomita, M., Komatsu, T. and Maruyama, M.(2016)
Rearing and observation of immature stages of the hoverfly Microdon katsurai (Diptera, Syrphidae). Biodivers Data J. 2016 Dec 9;(4):e10185. doi: 10.3897/BDJ.4.e10185. eCollection 2016.

ヒアリの報道によって注目を集めている身近な生物のアリ。誰しも幼少時にはアリの行列を観察したり、アリの巣を探したりした経験があるだろう。では、そのアリの巣のなかに好んで生息する生物が存在することはご存知だろうか。このように生活の一部や全てをアリに依存する生物は「好蟻性生物」と呼ばれ、慶應義塾大学環境情報学部 (所属は2017年8月現在) の岩井碩慶らは、その一種である「ケンランアリスアブ (Microdon katsurai)」の生態や幼生の形態について、新たな発見を得ることに成功した。

ケンランアリスアブは、絶滅危惧Ⅱ類に指定されている希少種であり、本種の生態や幼生の形態に関する情報はこれまで得られていなかった。一般的に、アリスアブの幼虫はアリの巣中で暮らすことが知られており、アリスアブの幼虫を採集する場合にはアリの巣を発掘する必要がある。しかしながら、ケンランアリスアブの宿主であると考えられているトゲアリ (Polyrhachis lamellidens) は樹木の洞に巣をつくることが多い。その特性から、トゲアリの巣を発掘することは難しいため、そのなかからケンランアリスアブを採集することも困難だった。一方で、トゲアリは朽木の中に営巣することが稀にあり、この場合は斧を使うことで容易に巣を破壊できる。そこで岩井らはまず、木に営巣しているトゲアリの探索をおこなった。その探索のため、岩井らは山梨県韮崎市にある穂坂自然公園の許可を得て、2015年の9月から10月の間に約1週間の野営生活を数回に渡って行った。その結果、朽木中に営巣しているトゲアリを数コロニー発見した。巣の発掘はトゲアリの動きが鈍い冬季に行い、この発掘によってトゲアリの巣中からケンランアリスアブの幼虫を発見した (図)。ケンランアリスアブがトゲアリを宿主とする好蟻性生物であると言える証拠を得たのである。さらに、ケンランアリスアブの幼生期の形態を記録することに初めて成功し、従来の分類体系が妥当であることも明らかにされた。今回得られたケンランアリスアブの生態学的な知見や、幼生の形態学的な知見は、絶滅危惧種であるケンランアリスアブの保全につながることが期待される。

 ケンランアリスアブを含む好蟻性生物は他にも確認されているが、どこで生まれ、そして生活するのかといった生活史が明らかにされていない種も多く存在する。ケンランアリスアブの宿主であるトゲアリ自身も、コロニーをつくるときに他種のアリを利用する好蟻性生物だが、トゲアリの生活史も理解が進んでいない。特に、トゲアリのコロニー内でうまれた新女王が、他種のアリを襲い背後から馬乗りになる行動をとることが知られているものの、その意義については未だ解明されていない。「今後はトゲアリについて、特に馬乗り行動の役割に着目し、化学生態学のアプローチからその意義を解明していきたい」と岩井氏は語った。


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図:トゲアリの巣内から発見されたケンランアリスアブの幼虫。体長は13.0mm程度。

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