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山形県鶴岡市で極限環境耐性を持つクマムシの新種を発見

採取場所の庄内にちなんで〝ショウナイチョウメイムシ〟と命名
Stec D., Arakawa K., Michalczyk Ł. (2018) An integrative description of Macrobiotus shonaicus sp. nov. (Tardigrada: Macrobiotidae) from Japan with notes on its phylogenetic position within the hufelandi group. PLOS One. 13(2):e0192210.



クマムシは極限環境耐性を持つ体長1mm以下の微小動物で、周辺環境の乾燥によってほぼ完全に脱水し、代謝を起こさない「乾眠」と呼ばれる状態へ移行する。この乾眠状態のクマムシは超低温や放射線、さらには宇宙真空への曝露といった極限環境に耐えることができる。このような独特の特徴を持つクマムシだが、実は市街地にも生息する生物で、顕微鏡を持っていれば様々な場所で見つけることができる。もちろん、人間にとっては無害なので心配は必要ない。

クマムシは18世紀に初めて発見されたあと世界各地に生息することが分かっており、これまでに約1200種が知られている。20世紀初頭には日本でもクマムシの研究が開始されており、1200種のうち167種の存在が確認されている。一方で、日本で発見された新種はまだ26種と限定的だったが、今回27種目の新種クマムシが発見された。(動画: https://youtu.be/dfGnvZclJcQ)

慶應義塾大学環境情報学部の荒川和晴准教授らは、山形県鶴岡市大塚町の市街地でコンクリートに生えた苔をサンプリングし、そこからチョウメイムシ科(Macrobiotidae) に属するクマムシの新種を見つけた。このチョウメイムシという科名は、1834年に世界で初めてクマムシの新種Macrobiotus hufelandiが記載されたとき、これらの生物が乾眠によって何年も生きながらえることから付けられた名前である。荒川准教授らが発見したクマムシは、この1834年に発見されたMacrobiotus hufelandiとよく似た形態をしていたが、ポーランド・ヤギェウォ大学のマイカルチャイク准教授らに鑑定を依頼し、体表を覆うクチクラ層に存在する孔が極めて小さいことや、前方3対の足に見られる出っ張り、さらには卵の表面に繊維状の突起が存在するなどの特徴を持つことがわかった(図)。

また、荒川准教授らは新種のクマムシの飼育系を確立し、DNA解析に十分な数にまで増殖させることにも成功している。新種のクマムシについてDNA解析を行い、系統分類で使用される代表的な塩基配列(ゲノムの18S rRNAおよび28S rRNA、ミトコンドリアゲノムのCOI遺伝子配列) を検討した結果でも、本種が未記載の新種であることが証明された。今回発見された新種クマムシは、庄内地方で発見されたことからMacrobiotus shonaicus(和名:ショウナイチョウメイムシ) と名付けられた。

荒川准教授らは、より詳細なDNA解析の準備を進めている。これまで、クマムシの分子生物学的な研究はヤマクマムシ科(Hypsibiidae)だけを対象にしたものがほとんどで、チョウメイムシ科の研究が進めば、クマムシ全体の極限環境耐性の理解が大きく進展することが期待される。さらに、これまで解析の中心だったヤマクマムシ科などのクマムシは単為生殖のため雌しか存在しないが、ショウナイチョウメイムシには雌雄が存在する。そのため、ショウナイチョウメイムシを使用すれば、クマムシの生殖に関する研究への応用も期待できる。

荒川准教授は、「ショウナイチョウメイムシは、私が以前に住んでいたアパートの駐車場で発見しました。あまりにも身近な場所での発見に私自身驚きましたが、庄内地方の豊かな生態系の良い例なのだと思います。庄内地方の名を冠したこのクマムシの研究が、世界中に広まっていくことを願っています。」と展望した。あなたのそばでも、まだ知られていないクマムシが発見される日を待っているかもしれない。

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図:ショウナイチョウメイムシの顕微鏡写真

(A)光学顕微鏡で撮影した全長の写真。(B、C、D)繊維状の突起に覆われ、穴が無くつるつるとした表面が特徴的な卵の電子顕微鏡写真。他のM. hufelandiグループのチョウメイムシの卵は、キノコのような円盤状の先端を持つ突起に覆われるものが多い。いずれの写真も単位はµm。

[編集: 川本夏鈴]

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