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大学院の実習授業「ゲノム工学実習」から5本の国際論文が掲載される

有用微生物5種のコンプリートゲノムを新規に解析

  1. Evans-Yamamoto D, Takeuchi N, Masuda T, Murai Y, Onuma Y, Mori H, Masuyama N, Ishiguro S, Yachie N, Arakawa K, Complete Genome Sequence of Psychrobacter sp, Strain KH172YL61, Isolated from Deep-Sea Sediments in the Nankai Trough, Japan, Microbiol Resour Announc, 2019, 8(16),e00326-19.
  2. doi: 10.1128/MRA.00326-19

  3. Nagata S, Ii KM, Tsukimi T, Miura MC, Galipon J, Arakawa K, Complete Genome Sequence of Halomonas olivaria, a Moderately Halophilic Bacterium Isolated from Olive Processing Effluents, Obtained by Nanopore Sequencing, Microbiol Resour Announc, 2019, .

    doi: 10.1128/MRA.00144-19

  4. Saito M, Nishigata A, Galipon J, Arakawa K, Complete Genome Sequence of Halomonas sulfidaeris Strain Esulfide1 Isolated from a Metal Sulfide Rock at a Depth of 2,200 Meters, Obtained Using Nanopore Sequencing, Microbiol Resour Announc, 2019, .

    doi: 10.1128/MRA.00327-19

  5. Tsurumaki M, Deno S, Galipon J, Arakawa K, Complete Genome Sequence of Halophilic Deep-Sea Bacterium Halomonas axialensis Strain Althf1, Microbiol Resour Announc, 2019,

    doi: 10.1128/MRA.00839-19

  6. Murai Y, Masuda T, Onuma Y, Evans-Yamamoto D, Takeuchi N, Mori H, Masuyama N, Ishiguro S, Yachie N, Arakawa K, Complete Genome Sequence of Bacillus sp, Strain KH172YL63, Isolated from Deep-Sea Sediment, Microbiol Resour Announc, 2020, 9

    doi: 10.1128/MRA.00291-20

ゲノムとは、ある生物が持つ全遺伝情報の総体であり、その生物が持つ遺伝子の種類を知り、さまざまな分子生物学的研究を行う上で不可欠な情報だ。ゲノムはDNAの4つの文字で記述されており、この文字列を読み取る機器はDNAシーケンサーと呼ばれる。10年ほど前にはDNAシーケンサーはまだ一度に解析できる文字数が少なく、ゲノム、さらに端から端までを網羅した完全ゲノムの解析には多くのコストとリソースを必要とした。例えば、我々ヒトのゲノムは2003年に最初に決定されたが、この時には13年と3000億ドルもの費用がゲノム決定作業に注ぎ込まれた。しかし、その後DNAシーケンサーが急速に発展したことで、現在では約30億文字のヒトゲノムを10万円ほどで解析できるようになっている。特に、近年は1度に数万文字を解析できるロングリードシーケンス技術の発展が目覚ましく、1度に数百文字しか解析できなかった従来法と比較して、その後のコンピュータ解析の効率が飛躍的に向上した。この技術の誕生は、ゲノムサイズが比較的小さな微生物では完全ゲノムの決定のハードルを大きく下げつつある。よって、微生物研究を今後行う上では、必要に応じて研究者個人が対象生物のゲノムシーケンスを行うことが当たり前の選択肢になってくると考えられる。

 そこで、慶應義塾大学大学院・政策・メディア研究科において荒川和晴准教授が担当する大学院講義「ゲノム工学実習」では、実習形式で完全ゲノムの決定技術を学ぶ試みを2018年秋学期より開始した。この講義では、受講者である学生が興味を持った微生物について完全ゲノムを決定するだけでなく、そのゲノム情報をバイオインフォマティクスにより機能の情報を追加 (アノテーション) して公共データベースに登録し、その内容を論文として国際学術誌に投稿する、という一連の研究プロセスを実践形式で学ぶことができる (山形県鶴岡市・先端生命科学研究所にて実施)。ロングリードのゲノムシーケンスには、高分子のゲノムDNA抽出、さらに末端にアダプターを付加したDNAシーケンス用ライブラリ作成といった分子生物学実験のプロセスと共に、得られたビッグデータのコンピュータ解析というバイオインフォマティクス技術が必要であり、加えて本実習では英語での論文執筆という学際的能力が求められる。

 2018年秋学期は10名の履修があり、5グループで5株の微生物ゲノムの解析を行ったところ、いずれもコンプリートゲノムが決定されたため、アノテーションが付与されたゲノムデータを国際データベースDDBJ/EMBL/GenBankに登録・公開し、論文をアメリカ微生物学会(ASM: American Society for Microbiology)のMicrobial Resource Announcements誌に投稿した。その結果、現在までに5報全てが査読後受理されている。これらの微生物は、四国の南に位置する南海トラフの深海から単離された低温細菌Psychrobacter sp.、オリーブオイル工場廃液に生きている好塩菌Halomonas olivaria、深海硫化鉱物上に生息する好塩菌Halomonas sulfidaeris など生態学的にも生体機能的にも興味深いものばかりであり、実習の成果が広く科学コミュニティにも貢献しうるものであると考えられる。荒川准教授は「なかなかに挑戦的な内容ではあるが、この講義を実現できるのは先端生命科学プログラムならではだと思います。今年度も授業から新しい科学的貢献ができるよう学生たちと頑張っていきます。」と語った。

Arakawa_2019.jpg図:実習の様子。

[編集:河野夏鈴]

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