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新規紫外線耐性菌株Arthrobacter sp. MN05-02のゲノム配列を決定

特徴的な色素産生遺伝子のパスウェイを明らかに

Ii KM, Kono N, Paulino-Lima IG, Tomita M, Rothschild LJ, Arakawa K. Complete Genome Sequence of Arthrobacter sp. Strain MN05-02, a UV-Resistant Bacterium from a Manganese Deposit in the Sonoran Desert. J Genomics 2019; 7:18-25. doi:10.7150/jgen.32194.

 夏休みに海水浴場やプールへ遊びに行き、気がつけば肌が真っ赤になってヒリヒリと痛んだ経験が誰しも一度はあると思う。降り注ぐ太陽光には、長い波長から短い波長の光まで含まれており、中でもエネルギーに富んだ短い波長の光を一般的に紫外線(UV: Ultraviolet)と呼ぶ。最近は、紫外線=害というイメージが社会的に定着してしまっているが、実は紫外線をある程度浴びることは健康を維持するために必要でもある。紫外線を浴びることがきっかけとなって、体内でビタミンDが生成される。このビタミンDには食物からのカルシウム吸収を促し、血液中のカルシウム濃度を一定に保つ働きがあるため骨格を健康に保つのに役立つ。しかしながら紫外線の浴び過ぎにも注意が必要である。紫外線を浴び過ぎると、細胞内のDNAに損傷をもたらし細胞の突然変異や癌化を引き起こすからである。こうした悪影響に対して、生物にはDNA損傷の防御・修復メカニズムが備えられており、そのメカニズムは長い年月をかけて異なる生物種間で多様化してきたと考えられている。例えば、放射線耐性菌の代表格として知られるDeinococcus radioduransは放射線だけでなく、紫外線や乾燥にも耐性を持っている。このように複数の耐性機構が存在するケースもあるのだが、放射線に弱い同種の変異株は同時に乾燥にも弱くなることが知られている。これら各耐性同士の相互関係は未だ明らかになっておらず、バクテリアにおける紫外線耐性メカニズムはまだまだ複雑かつ多様であると予想されている。

 そこで慶應義塾大学環境情報学部(当時)の飯井虹之介氏らは、NASA Ames Research CenterのPaulino-Lima研究員らとともに、新規紫外線耐性菌株の全ゲノムシーケンシングおよび比較ゲノム解析を行った。サンプルとしてはアメリカ合衆国ソノラ砂漠に位置するマンガン鉱山の表層土壌より単離された数十種のUV耐性細菌のうち、Arthrobacter属に分類される1株を対象とした。分子系統解析の結果から、本株はArthrobacter sp. MN05-02と命名された。同株はUV-C耐性を持つことに加え、培養時にコロニーの色が橙から赤にかけて呈色するという。飯井氏は、コロニーの色素とUV耐性の間には何らかの因果関係があるのではないかと睨んだ。そこで本研究では、MN05-02株と近縁種における色素合成関連遺伝子を比較解析することで、コロニーにおける色素の呈色がUV耐性にどのように寄与しているのかという疑問に迫った。DNAシーケンシングには、Illumina MiSeqとOxford Nanopore Technologies MinIONを併用したハイブリッドシーケンシングという手法を採用した。本手法の採用によりロングリードを併用したアセンブル方法で一本の環状ゲノムに繋ぐことが出来る。MN05-02株をシーケンシングした結果、染色体ゲノム1本(3.5M bp)とプラスミドゲノム1本(0.2M bp)が取得された。同株の遺伝子領域を予測したところ、染色体ゲノム上にはタンパク質コード配列(CDS: Coding Sequence)が3,436個、tRNAが52個、tRNAが12個、ならびにプラスミド上にはCDSが177個保存されていた。

 しかしながら先行研究によると、同種は培養時に黄色の色素を呈色させることが報告されているが、今回単離されたMN05-02株は赤色の色素を呈色させる。この色素の違いが一体何によってもたらされているのかを探るべく、飯井らは色素産生に関与する遺伝子を探索した。一般的に黄、橙、赤などを示す天然色素として知られているのは、トマトやニンジン、フラミンゴやロブスターの主要色素成分として知られるカロテノイド色素である。よってMN05-02と近縁種の比較解析を実施するうえで、注目する遺伝子をカロテノイド生合成関連遺伝子に定め、これら遺伝子群のオペロン構造の比較解析を行った。この際、オペロン構造の同定には、Micrococcus luteus のカロテノイド生合成遺伝子クラスターとして報告されている既知の遺伝子セットを用いた。その結果、カロテノイド生合成関連遺伝子群のオペロンの差異は、産生される色素のバリエーションに対応することが確認された。オペロン構造を比較した細菌株のうち、培養時に赤色の色素を産生するのはMN05-02株とA. agilisのみであるのに対し、その他の株は黄の色素を産生する。この色素の違いを反映するかのごとく、両株はC45/C50シクラーゼ(crtY)とC.p. 450グルコシルトランスフェラーゼ(crtX)の関連遺伝子を欠損していた。したがって、これらの株はC45/C50カロテノイドを産生する他種とは異なり、C40カロテノイドを産生する経路によって、コロニーが赤色に呈色するのだろうと考えられる。

 本研究成果を踏まえて飯井氏は、「今回の配列決定によって今後比較ゲノム解析を進めるうえで十分なデータが出揃いました。今後はより広範的な分類群であるMicrococcaceae科の細菌が有するUV耐性メカニズムの一端を明らかにしていきたいです。」と語った。

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1:カロテノイド生合成関連遺伝子群のシンテニー解析

Corynebacterium glutamicum Dietzia sp. CQ4、 Micrococcus luteusArthrobacter castelliA alpinus A. agilis、およびA. sp. strain MN05-02株のカロテノイド系色素生合成関連遺伝子群のオペロン構造を比較した概略図。

[編集:武田知己]

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