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LC-MS/MSとCE-MS/MSを併用したジペプチドの一斉分析法の開発

食品中の機能性成分や疾患バイオマーカーの探索に向けた新技術

Ozawa H, Hirayama A, Ishikawa T, Kudo R, Maruyama M, Shoji F, Doke T, Ishimoto T, Maruyama S, Soga T, Tomita M. Comprehensive dipeptide profiling and quantitation by capillary electrophoresis and liquid chromatography coupled with tandem mass spectrometry. Analytical Chemistry, 2020;92(14):9799-9806. doi: 10.1021/acs.analchem.0c01258.

 ジペプチドとは、2つのアミノ酸がペプチド結合でつながった化合物であり、アミノ酸とは異なる物理的特性や機能を有するためにポストアミノ酸として近年注目を集めている。ジペプチドの中には生理活性を有するものや疾患バイオマーカー(病気の指標になる代謝物)として利用されているものもあり、さらには醤油や味噌などの発酵食品中の機能性成分としても良く知られている。例えば人工甘味料として有名なアスパルテームは、フェニルアラニンとアスパラギン酸という二つのアミノ酸が繋がったジペプチドのメチルエステルで、砂糖の約200倍の甘みがあることから低カロリーの代替品として活用されている。しかしながら、ジペプチドは400種類以上と膨大であり、またアミノ酸の結合順序が逆になった異性体が存在するため、既存の方法では多くのジペプチドを一斉分析するのは困難であった。

 そこで、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程の小澤仁嗣氏、特任講師の平山明由氏らは、液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS/MS)とキャピラリー電気泳動タンデム質量分析法(CE-MS/MS)を併用してジペプチドを一斉分析する方法の開発を行った。化学的に不安定なシステインを除く361種類のジペプチドに対し、液体クロマトグラフィーに用いるカラムの種類やキャピラリー電気泳動に用いる泳動液の種類、pH(水素イオン濃度)を詳細に検討し、各異性体が効率よく分離する条件を決定した。また、各異性体の分離に関しては(図1)、例えば、イソロイシン(I)、ロイシン(L)から構成されるジペプチドはCE-MS/MSでは分離が不十分であるのに対し、LC-MS/MSでは4つの異性体が完全に分離できた。一方、リジン(K)、グリシン(G)、グルタミン(Q)から構成されるジペプチドは、LC-MS/MSでは全く分離しないのに対し、CE-MS/MSでは完全分離が可能であった。このように、各異性体の測定方法について検討した結果、最終的に335種類(約93%)のジペプチドについて、その異性体の影響を受けず単独で検出することが可能であることがわかった。さらに、検出限界が0.088 ~ 83.1 nMと低いため、誘導体化試薬と反応させて特定のジペプチドの感度を上げなくてもジペプチドを検出可能であり、また、回収率にも問題が無いことから、高精度でジペプチドの一斉分析を行うことが可能である。

 さらに、小澤氏らは本分析法を通常食と高脂肪食を与えたマウスの肝組織の分析に適用した(図2)。その結果、236種類のジペプチドのピークの検出に成功した。また、検出されたジペプチドについて主成分分析を行った結果、通常食と高脂肪食のグループが第1主成分で分かれることがわかった。また、ボルケーノプロットを調べると、29種類のジペプチドの量が有意に高脂肪食負荷マウスの肝組織中で減少しており、有意に増加していたジペプチドは1つもないことがわかった。高脂肪食を多く摂取すると、体内で活性酸素種が多く産生されることが知られており、減少したジペプチドの一部はこれらの消去に使われた可能性が示唆された。
 今回開発したジペプチドの一斉分析法は、食品中の機能性成分や疾患バイオマーカーの探索など、今後さまざまな分野への応用が期待されている。小澤氏は「網羅的な代謝物の解析を行うメタボロミクスの分野に新たな基盤技術を築くことができたのではないかと思います。」と語った。

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図1: 本研究で開発したジペプチドの一斉分析法における構造異性体の分離
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図2: 通常食(左図、青)と高脂肪食(左図、赤)を与えた場合のマウスの肝臓中のジペプチドの主成分分析結果(左図)とボルケーノプロット(右図)

[編集: 安在麻貴子]

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