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モノリス型シリカカラムを用いたタンパク質の網羅的分析手法の開発

大腸菌のタンパク質を短期間で一斉同定することに世界で初めて成功

Iwasaki M, Miwa S, Ikegami T, Tomita M, Tanaka N, Ishihama Y.. (2010) One-dimensional capillary liquid chromatographic separation coupled with tandem mass spectrometry unveils the Escherichia coli proteome on a microarray scale. Anal Chem., 82(7):2616-20. 

 私たちの体は約60兆個の細胞から成っており、その細胞を構成している大部分の物質はタンパク質である。タンパク質はアミノ酸が鎖状につながったもので、アミノ酸の組み合わせや化学修飾によってタンパク質の性質が決まるが、現在、生体内で働くヒトのタンパク質は少なくとも数十万種類あるといわれている。これらのタンパク質は細胞をつくるための素材としての役割だけではなく、化学反応の触媒や生体組織の維持など幅広い機能を担っていることからも、その重要性が認知されている。

 分子生物学の発展によりタンパク質を同定するさまざまな手法が開発され、細胞中のタンパク質を網羅的に測定できるようになってきたが、存在量の少ないタンパク質の同定は依然として困難である。一方で、存在量が少なく同定が難しいタンパク質は、細胞内で重要な役割を担っていることが知られており、これらのタンパク質を含めて網羅的に一斉同定する技術が必要であった。そこで、博士課程一年の岩崎氏らは、モノリス型シリカカラムに着目し、分析条件を改善することで、細胞中のタンパク質を存在量に偏りなく全て同定できる手法を開発した。

 新手法では、まず細胞から抽出したタンパク質を酵素で断片化し、モノリス型シリカカラムを用いて分離しながら質量分析器で測定した。この際に、同グループ増田氏が開発した相関移動法(PTS)という、タンパク質の性質に偏りなく効率的にタンパク質を抽出できる手法を用いた(Masuda et al, 2008)。PTS法によりタンパク質を効率的に抽出し、モノリス型シリカカラムを用いて分析条件を改善したことで、大腸菌のタンパク質を一斉同定することに成功した。さらに、本手法はタンパク質を一斉同定できる利点に加え、測定時間の大幅な短縮を実現した。既存の手法では、様々な操作を組み合わせるために実験操作が煩雑であり、また測定を何十回も繰り返す必要があったため、分析に1週間程度必要であった。しかし、本手法では簡便な実験操作で試料を調整し、約2日間の1回の分析でタンパク質の網羅的な同定を可能とした。岩崎氏らの新手法は、生物由来のタンパク質を短期間で網羅的に同定することに世界で初めて成功した画期的な手法である。

 本研究グループは、増田氏が開発した相関移動法と組合せることで、他グループに類をみない優れた手法の開発に至っている。同様に、同グループが開発したHAMMOC法(Sugiyama et al, 2007)を用いてリン酸化されたペプチドを高選択的に濃縮し、本手法を適用することで、これまで同定できなかったようなリン酸化タンパク質を短期間で同定することもできると岩崎氏は語る。このように、本研究グループでは、開発してきた様々な技術を組み合わせることで、更なる優れた技術の開発を目指している。

 タンパク質を網羅的に測定する技術は、患者と健常者におけるタンパク質の種類や量の違いを解析し、薬剤の効果診断や、病理メカニズムの解明へと繋がることが期待される。このため、現在岩崎氏らは、人や酵母などの複雑な生物においても応用できる測定技術を開発中だと言う。タンパク質研究をとおして医療分野に貢献したい、と語る岩崎氏の研究にますます期待していきたい。

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図.モノリス型シリカキャピラリーカラム(350 cm)を用いた、LC-MS/MS測定風景

[ 編集: 高根香織 ]

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