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HOME 論文/ハイライト 研究ハイライト 研究者インタビュー 若山正隆特任講師

若山正隆特任講師

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─現在の研究テーマについて教えて下さい。

 食品や農作物に対してメタボローム解析を行う総合研究とその応用です。県が進める「山形県バイオクラスター形成促進事業・共同研究シーズ事業化支援助成事業」として、山形県内の地元企業等と多くの共同研究を行い、農林水産や食品産業など幅広く携わっています。これ以外にも山形県農業総合研究センターとのイネの登熟温度に関わるメカニズムの解明、県工業技術センターとのフルーツからの加工品開発と有効活用の研究、さらに県水産研究所とは魚の熟成評価などに取組んでいます。


─どういうアプローチですか。

 ターゲットによって異なる部分もありますが、現場のサンプリングは重視しています。現場に行ってようやく見えてくることも多く、共同研究先の企業等はその道のプロですので、どのような視点で何を見極めて何を求めているのか、を現場でしっかりインタビューしつつ理解を深めています。また結果・成果が期待されるので、事前に入念な打ち合わせを行い、実験系を組んでいます。我々が解析により明らかにした結果をもとに、加工技術を検討したり新たな商品開発に結びつけるように進めています。


wakayama_photo1.jpg─研究のポリシーは何ですか。

 地元企業等との共同研究では、お互いWin-Winになるよう意識しています。個々の原理を明らかにするという研究者としての大事な軸を持ちつつ、研究としても価値があり、技術開発などの製品作りにも価値がある、お互いにメリットがある研究の形を目指しています。


─研究者になったきかっけは何ですか。

 小学校2年生頃から、研究者になりたいと思っていました。科学者の伝記などを読んで育ち、科学者への漠然とした憧れというのを抱いていました。それから、自然現象に対しての理解を求める先生に出会ったことです。自然現象や自然科学の解釈について教わり、サイエンス全般に興味を持ち、研究者の道へ進むきっかけになったと思います。現在取り組んでいる研究も比較的幅広い分野を扱っており、この研究スタイルが私には合っているのかなと思っています。


─鶴岡で研究をする意義は何でしょうか。

 私は埼玉県の比較的東京に近いところで育ちましたが、今思うと本当の意味で農林水産業での実情というか、何が求められているのかについてあまりよく分かっていませんでした。2013年に慶應義塾大学先端生命科学研究所に来て、地元企業の方と共同研究を進める中で、現場で求められているニーズや、核となる方々がどのような手法で農産物生産に取り組んでいるか、具体的な産業化のプロセスはどのようなものかを理解できるようになったことです。その上で、基礎研究という大事な部分を食品や農産物の現場にどう活かすか、そして現場を知ることで得た新しい視点を基礎研究に取り込むことができ、また我々研究者が行っていることを共同研究を通して理解してもらうことができる点も、鶴岡で研究する意義と同時に私のモチベーションの一つになっています。


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─最後に今後の展望をお聞かせください。

 メタボローム解析の表し方として、解析した代謝物のデータを"代謝マップ"と呼ばれる詳細な経路・地図に当てはめることをよく行います。このマップの表し方ですが、実際は食品の加工過程などでも示せるはずなのですが、その整備はまだ十分とはいえません。現在は食品の加工過程で動いている代謝物質についてひとつひとつ分析をかけて追っていくという段階なんです。食品加工の工程ごとに測定したメタボロームデータなどを見ていると、現在地が変わっていくマップのようなものになっています。そのマップを元にどこを目指した方がよいか、もしくはルートをどう変えると最適か見えてくるものがあるので、まずはそれを完成させるということを目指しています。例えば、現在は当たり前のようにスマートフォンの中にマップのアプリが入っています。今では携帯1つで現在地が分かるようになっていますが、以前は紙の地図を使ってルートや周辺情報を得ていました。地図を作るにも、時代時代で変化があり、昔は現地を歩いて測量を行い、その後、空中写真での航空測量、今では人工衛星(GPSなど)で測量することが可能になりました。この地図が作られたプロセスのように、私たちは各段階のメタボロームデータを使って、食品や農作物など目指すものについての地図を作るということを進めています。地図があるから目的地までの行き方を変えたり、道路を通したりということができるように、食品においても目的に応じて製造法を改良できるようになるでしょう。今の地図アプリに至るような見方が食品などの製造過程にも出来ることを目標に昔からの地図作りの過程を辿っている段階です。また当分はマップの読図が必要なわけで、マップを「読める人」を増やしていくことにも、中核となって取り組んでいきたいと思います。

─ありがとうございました。

(2021年3月18日 インタビューア:安在 麻貴子  写真:岩井 碩慶)

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