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環状構造を経て合成される新種トランスファーRNA遺伝子を発見

tRNA進化の解明へ、バイオインフォマティクスで大きく貢献

Soma, A., Onodera, A., Sugahara, J., Kanai, A., Yachie, N., Tomita, M., Kawamura, F. and Sekine, Y. Permuted tRNA Genes Expressed via a Circular RNA Intermediate in Cyanidioschyzon merolae" Science, 3118(5849) 450-453

 地球上のすべての生物の細胞は、主にタンパク質で構成されている。タンパク質は、ゲノム配列中に記された遺伝暗号に従い、20種類のアミノ酸が鎖状につなぎ合わされることで合成される。この時、遺伝暗号を読み取って必要なアミノ酸を運搬し、タンパク質の合成を担っている分子がトランスファーRNA分子(以下、tRNA)であり、tRNAをコードする遺伝子はtRNA遺伝子と呼ばれる。

 ひとつのtRNAが運搬するアミノ酸の種類はひとつに決められている。そのため、「グルタミン専用tRNA」、「ロイシン専用tRNA」など、20種類のアミノ酸に対応するすべてのtRNA遺伝子が、生物のDNA上にあらかじめ準備されている。

 最小の真核生物と言われる原始紅藻Cyanidioschyzon merolae(以下、シゾン)も、20種類のアミノ酸に対応するtRNAをゲノム上に持っていると考えられる。ところが、完全に解読されたシゾンのゲノムDNA配列の中を探しても、存在するはずのtRNA遺伝子の多くが見つからず、シゾンがどのようにタンパク質を合成しているのかは、大きな謎とされてきた。

 修士課程一年の菅原潤一氏を中心とする研究グループは、これまでtRNA遺伝子予測ソフトウェアであるSPLITS(http://splits.iab.keio.ac.jp)の開発を独自に進めていたが、今回、立教大学理学部生命理学科関根靖彦准教授、相馬亜希子研究員らとの共同研究により、SPLITSを用いてシゾンのゲノム配列中にあるtRNA遺伝子の予測を行った。その結果、シゾンの未知tRNAを発見することに見事成功したのである。その上、発見されたtRNAは新しい構造をもったtRNA遺伝子「Permuted tRNA遺伝子」であった。

 一般的に、ゲノム上のtRNA遺伝子の配列は、転写されて作られた最終産物であるtRNAの配列とほぼ同じである。ところが、今回発見された permuted tRNA 遺伝子は、遺伝子領域の前半と後半が2つに分断され、その順序が「逆転」した配列を持つ。そして、前半と後半が入れ換わった permuted RNA から正しいtRNAを作り出すため、転写された RNA 鎖の末端同士をつなぎ合わせて環状構造を形成し、次いで別の場所に切れ目を入れることで逆転していた配列を正しい順序に置き換える、新規の修飾メカニズムの存在が明らかになった(図1)。

 シゾンという原始的な生物における新種のtRNA遺伝子の発見は、tRNA遺伝子の起源や進化の謎の解明に大きな前進をもたらすだろう。また、遺伝子の前半と後半がRNA上で逆転するという全く新しい概念は、次々と決定されているゲノムDNA配列から生命情報を読み出していく上での斬新な視点を与えるものであり、生命情報を解き明かす強力な手がかりになると期待される。

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<図の説明>
permuted tRNAの合成機構。3'断片と5'断片が繋がった転写産物である一本鎖RNAは、プロセシングを受けて環状RNAになった後、更に3'断片と5'断片の中間の領域がプロセシングされることで再び一本鎖RNAとなり、成熟tRNAが合成される。

[ 編集: 小川 雪乃 ]

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