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Genome Projector: Googleマップで直感的にゲノム情報をブラウジング

最新のインターネットアプリケーション開発技術を駆使して、広大なゲノム情報の世界を探索可能に

Arakawa, K., Tamaki, S., Kono, N., Kido, N., Ikegami, K., Ogawa, R. and Tomita, M. Genome Projector: zoomable genome map with multiple views, BMC Bioinformatics., 10, 31.

 21世紀初頭からの測定技術の急速な発展により、ゲノム・RNA・タンパク・代謝物質などといったさまざまな細胞内物質の情報が蓄積されてきている。その一方で、これらの情報はゲノム・トランスクリプトーム・プロテオーム・メタボロームなど、対象とする物質レイヤーや対応する実験手法ごとにデータベース化されているのが現状である。生命現象というのはあくまでこれらの集合なので、実際にデータを観察する際には複数のデータベースを横断的に見ていく必要がある。そして、データの全体像とともに各要素の挙動を把握できることも重要であり、多角的かつ多尺度的に観察しなければならない。

 これは一見すると難しいことのようだが、私たちが普段インターネットの膨大な情報を検索するときには、こうした多角的かつ多尺度の情報を扱っている。例えば、「六本木に出かけて食事をする」という場合、東京近郊路線図というちょっと大きな視点から地図を見るとともに、お店の場所や駅からの徒歩ルートを調べるために六本木駅周辺の地図も見るだろう。また、乗換案内で到着予定時刻に最適な路線を検索したり、「ぐるなび」でお店のメニューをみたり、「ホットペッパー」でクーポン券を探すかもしれない。このように、私たちは日常的にインターネットを多角的かつ多尺度的に検索している。この時に入り口となるのがブラウザというソフトウェアだ。学生を中心として活動している荒川講師の研究グループは、まさにこのゲノム情報のためのブラウザ、「Genome Projector」を開発した。

 Genome Projectorの開発には最新のインターネット技術が数多く使われている。例えば、Googleが提供している地図を見るための技術を応用して、ゲノム中の遺伝子のならびを描いた巨大な「地図」を、マウスのスクロールホイールで簡単に拡大・縮小しながら見ることができるようにしている。また、AJAXというウェブアプリケーション開発技術により、Genome Projectorはまるでデスクトップアプリケーションのように機敏に動作するウェブアプリケーションとして実装されており、「タブブラウジング」によって様々なレイヤーを切り替えながらデータを横断検索できる。Genome Projectorを使えば、研究者はある遺伝子が全体の中でどういう位置づけを持つのか、どのくらいの長さでどのような遺伝子の近くにあるのか、染色体上のどこに位置しているのか、塩基組成はどうなっているのか、どういう反応をつかさどっているのか、ということを瞬時にレイヤーを切り替えながら観察できる。また、その遺伝子が他の生物ではどういう特徴を持っているのか、ということも簡単に見ることができる。このように、本来非常に複雑で多角的かつ多尺度的にみなければ理解することができない生命現象を、Genome Projectorを入り口とすることで手軽かつ素早く探索していくことができるのである。

 Genome Projectorは2007年にはじめて学会で発表されてから画期的なインターネットアプリケーションとして非常に多くの反響を得ており、2008年10月にはインターネットアプリケーション分野で定評のあるMashup Awards 4thにおいてGoogleマップの生物学分野への応用が高く評価され、Google賞を受賞した。対象者が生物学者という、利用する層が極めて限られたアプリケーションが本賞を受賞するのは異例であり、「バイオインフォマティクスという最先端の学問分野だからこそ必要な要素を生かし、先進的なソフトウェアを今後とも開発していきたい」と荒川講師は語っている。




図:Genome Projectorのスクリーンショット

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