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RNA分解酵素におけるDNA鎖とRNA鎖との違いを区別する領域

構造が類似しながらも基質が異なるタンパク質の比較解析


Kitamura. S, Fujishima. K, Sato. A, Tsuchiya. D, Tomita. M, and Kanai. A. (2010) Characterization of RNase HII substrate recognition using RNase HII-Argonaute chimeric enzymes from Pyrococcus furiosus. Biochem. J, 426(3), 337-344.

  タンパク質はアミノ酸が重合したものであるので、一般的に類似したアミノ酸配列を持つタンパク質どうしは構造もまた似ている。一方、アミノ酸配列を比較した時にはほ とんど相同性が見られないのに、その立体構造が酷似していることもある。例えば、 RNase H と Argonaute (Ago)タンパク質(そのなかの PIWI ドメイン)の間にはアミノ 酸配列からは想像できなかった構造の類似性がある。ここで、RNase H は、DNA 複製時における不連続の短い DNA 断片(岡崎フラグメント)に見られるような、DNA 鎖と RNA 鎖がハイブリッドを形成した領域の RNA 鎖を分解する酵素である。また、Ago は 遺伝子発現を制御する RNA 干渉に関わる主要な因子の一つであり、2 本鎖 RNA 分子を認識して、その RNA を分解するタンパク質である。このように、構造が類似しながらも基質が若干異なるタンパク質の比較解析は、タンパク質の機能ドメインの役割を明らかにする上で有用であると考えられる。そこで、北村さや香氏らは、超好熱性の古細菌 (アーキア)である Pyrococcus furiosus にはこの両方のタンパク質(Pf-RNase HII と Pf-Ago)が存在することに着目し、これらのタンパクそれぞれの部分から構成され るキメラ分子を解析すれば、RNA と DNA とを区別するような領域が分かるのではない かと考えた。

 実験の結果、いくつか思いがけないことが起こった。まず、Pf-RNase HII 自身が DNA/RNA ハイブリッドだけでなく、2 本鎖 RNA を切断した。これは Mn2+イオン依存に観察された。そして、Pf-Ago の方はどちらかといえば RNA より DNA により親和性があった。そこで、2種のタンパク質間ではなく、そもそもpf-RNase HII 上で RNA/DNA ハイブリッドと2本鎖 RNA を区別する領域を明らかにすることに目的を変え、キメラタンパク質の解析から、その候補アミノ酸残基を推定することが出来た(図)。 図中には Pf-RNase HII 上で、特に 2 本鎖 RNA の切断に重要であったアミノ酸残基を示している。すなわち、R113(青)と D110(黄)を Pf-Ago タイプのアミノ酸に置換すると 2 本鎖 RNA の切断活性が著しく阻害されたが、DNA/RNA ハイブリッドのそれに変化がなかった。これは、変異体で活性そのものがなくなったのではなく、2 本鎖 RNA を認識しなくなったのだと考えられる。この領域が面白いのは、切断活性そのものに必要な領域(赤)が接している RNA 鎖とは逆鎖にあたる鎖にしか、同領域は接す ることが出来ない点である。つまり、この領域で基質の RNA/DNA ハイブリッドと2 本鎖 RNA を区別していることが考えられる。このような方法の応用性は高いと考えられ、アミノ酸配列が異なり、立体構造が似ているようなタンパク質のペアを比べること により、そのタンパク質のファミリー間のみの比較では分からなかったような、新しい活性に関わる領域を決めていくことが出来ると期待される。

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図. アーキア RNase HII と基質となる RNA/RNA ハイフ?リットとの立体 構造モテ?ル。RNA 切断活性に必要な RNase HII 上の領域(赤)か?、切断される RNA 鎖に接しているのに対して、基質のストラント?(鎖)識別に関わる RNase HII 上の領域 (青、黄)は、逆鎖側に接していることに注意。

[ 編集:喜久田薫 ]

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