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tRNAのイントロンを切断する新しい酵素を極小古細菌ARMANから発見

イントロンとその切断酵素間の共進化に関して新しい概念を提唱

Fujishima, K., Sugahara, J., Miller, CS., Baker, BJ., Di Giulio, M., Takesue, K., Sato, A., Tomita, M., Banfield, JF., Kanai, A. (2011) A novel three-unit tRNA splicing endonuclease found in ultrasmall Archaea possesses broad substrate specificity. Nucleic Acids Res., 39(22), 9695-704.

  古細菌において見られるtRNA遺伝子に含まれるイントロン配列は、真核生物における保存性からそれらの共通祖先がすでに有していた進化的に古いタイプで あると考えられている。tRNAイントロンの特徴は配列が20?80塩基程度と短いことであり、これらはスプライシングエンドヌクレアーゼと呼ばれる酵素 によって切断されることが知られている。この酵素はこれまでに古細菌で3種類[α4型、α2型、(αβ)2型]、真核生物で1種類[αβγδ型]が同定さ れており、普遍的に4つのユニットからなる構造をとることが確認されている。

 このようなtRNAイントロンとその切断酵素の多様性や進化を調べるため、藤島・菅原氏らは、カリフォルニア大学バークレー校のJill Banfield教授の研究グループと共同で、カリフォルニア鉱山の廃水に生育する極小の古細菌ARMAN (Archaeal Richmond Mine Acidophilic Nanoorganisms) 3種のtRNA遺伝子を調べた。その結果、ARMAN-2の1種のみから従来知られていないイントロンの二次構造や挿入位置をもつtRNAを多数発見し た。これらのイントロン配列は近縁種が持つ従来型の酵素では切断できないことから、ARMAN-2は新型のtRNA切断酵素を有する可能性が示唆された。

  そこで、配列解析によりARMAN-2のゲノムからスプライシングエンドヌクレアーゼをコードする遺伝子を予測した結果、藤島氏らは2つの重複した触媒ユ ニットと1つの構造ユニットが合わさった非常に珍しい3ユニット構造を持つ遺伝子を見いだした。さらに詳細に調べることにより、この酵素が触媒-構造ユ ニット間でタンパク質間相互作用をすることにより、2量体を形成することが明らかになった。このことから藤島氏らはこの計6ユニット構造で機能する新種の スプライシングエンドヌクレアーゼを[ε2型]と命名した。

 興味深いことに、ε2型は従来まで(αβ)2型のみで知られていた幅広いイ ントロン構造を認識して切断する活性を有している。このことから著者らはε2型酵素の獲得に伴ってARMAN-2のtRNAイントロンの数や種類が増大し たと結論づけた。実際にARMAN-2のtRNA遺伝子の約半数はイントロンの挿入を受けている一方、α4型を有する近縁種のARMAN-4と ARMAN-5では10%程度にとどまっている。従って今回の発見はtRNA遺伝子におけるイントロンとスプライシングエンドヌクレアーゼ間における共進 化の新しい例を提示したといえる。

 進化の過程でなぜtRNAのイントロンの数や種類が増大されたのか。それによって得られるメリットは何であるのか。tRNAの起源を解明する上で非常にエキサイティングな問いである。今後の本研究分野の発展に期待がよせられる。

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図:ARMAN スプライシングエンドヌクレアーゼの個々のユニットにおける保存された機能領域 (A)4つの主要な機能領域:触媒領域、ポケット、L10ループ、β-β相互作用ドメインに関して様々な古細菌のスプライシングエンドヌクレアーゼ間でア ミノ酸配列を比較した結果。個々の機能領域はARMAN-2のε2型酵素のモデル図に異なる色で示してある。正電荷のポケットと負電荷のL10ループは多 量体を形成する上で必要であり、チロシン(Y)、ヒスチジン(H)、リジン(K)から成る触媒領域はイントロンの切断に必須である。β-β相互作用ドメイ ンはユニット間のタンパク質の構造安定化に寄与している。 (B) ε2型を含む古細菌における4種類のスプライシングエンドヌクレアーゼの構造モデル図とアミノ酸長の比較。ARMAN-2及び近縁のARMAN-1で見つ かった新型のホモ2量体[ε2型]及びホモ4量体[α4型]、ホモ2量体[α2型]、ヘテロ4量体[(αβ)2型]が示してある。ARMAN-4及び ARMAN-5はホモ4量体[α4型]を持つ。

[ 編集: 高根香織 ]

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