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メタボローム解析による高脂血症モデル動物の全身性代謝異常の解明

病態に伴う全身性のストレスを明らかに

Ooga, T., Sato, H., Nagashima, A., Sasaki, K., Tomita, M., Soga T. and Ohashi, Y. (2011) Metabolomic Anatomy of Animal Model Revealing Homeostatic Imbalances in Dyslipidemia. Y. Mol. BioSyst.,7, 1217-23.

* 本研究はヒューマン?メタボローム?テクノロジーズ株式会社による独自の研究である  

  生体システムを構成する代謝ネットワークは、一般的に強い恒常性を持つと考えられている。疾患や加齢による機能異常では、この恒常性に不均衡生じ、その徴 候がタンパク質や代謝分子の異常値、いわゆるバイオマーカーとして顕在化する。生体内に存在する多数の代謝分子を網羅的に調べるメタボロミクスは、未知の バイオマーカーを含めた代謝変化の探索に於ける強力なツールであり、我々が現在不可能な疾患の診断を可能にするものとして期待されている。

 しかし一方で、臨床現場で診断検体として用いられる血液や尿などの体液サンプルは、全身の組織における代謝変化が「混ざった」結果を表現するもの である。そのため、発見されたバイオマーカーの背景にある疾患や薬効の生物学的亜メカニズムを説明するには情報が不十分であるケースが多々見られる。全身 性の代謝異常を理解し、その対処法を開発するためには、体液だけではなく全身の代謝プロファイルの変化を把握する必要がある。

 我々はヒト 高脂血症のモデル動物としてWatanabe heritable hyperlipidemic (WHHL) ウサギの血液、肝臓、心筋、脳の各組織の代謝プロファイルを解析し、健常コントロールとの違いを調べた。本研究ではCE-MSを用いて様々な化学的性質を 持つに代謝分子を測定し、それらの増減を代謝経路に反映することで、病態に伴う全身性のストレスを解明することができた。

 疾患モデルウ サギでは、各組織で酸化ストレスを示唆する代謝変化が観察されており、特に肝臓ではマーカーとなり得る顕著な代謝物レベルの変化が複数確認された。例え ば、プリンヌクレオチドの最終以下産物である尿酸の顕著な蓄積が確認され、さらに検証試験として行われた遺伝子発現解析により合成酵素であるキサンチノキ シダーゼの活性化が確認された。この酵素は反応副産物とし酸化ストレスの原因となる活性酸素種を産生することが知られており、今回観察された全身性酸化ス トレスの一因であると考えられる。またこの他に、葉酸欠乏に起因すると思われるコリン代謝中間体の蓄積は、その徴候が血液サンプルに於いても顕著に観察さ れており、体液により肝臓の酸化ストレスを評価し得ることが示された。

 我々はこのような疾患に於ける代謝異常と並行して、高脂血症の治 療薬である血中コレステロール降下剤(シンバスタチン)を投与した病態群に於ける代謝プロファイルの変化も観察した。上記に挙げた肝臓での代謝異常は、短 期間の薬物経口投与により緩和しており、代謝プール全体が健常のものへと近づく傾向が得られた。このような変化は従来の薬効指標である血中脂質レベルの低 下が顕著ではない段階で得られており、早期・低容量での薬効を評価する上での新たな指標として期待される。

 高脂血症をはじめとする生活 習慣病は全身性の代謝異常を伴うものであり、その病因は複数の因子が積み重なったものである。本研究のように全身の異常を把握することで、病因群の中から とくに決定的な標的分子や異常組織を究明し、より効果的な治療へと導くことが可能になる。

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図: 高脂血症ウサギにおける全身性の代謝異常と、治療薬投与によるその緩和。棒グラフ(中央)は、健康コントロール群(緑)、病態群(赤)、投薬群(青)の肝 臓におけるコリン異化代謝中間体レベルを示す。ヒートマップ(右)は、各組織に於ける病態-健康コントロール群(左)、および病態-投薬群の代謝分子レベ ルの比較を行い、それぞれ病態群で増加したものを赤、減少したものを緑で示す。

[ 編集: 高根香織 ]

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