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ATPではなくGTPで活性化するRNA サイクラーゼを発見

RNA連結過程における重要性を提唱

Sato, A., Soga, T., Igarashi, K., Takesue, K., Tomita, M., Kanai, A. (2011) GTP-dependent RNA 3'-terminal phosphate cyclase from the hyperthermophilic archaeon Pyrococcus furiosus. Genes to Cells, 16(12), 1190-1199

  遺伝情報の担い手であるRNAは、塩基-糖-リン酸から構成されるユニットが、ホスホジエステル結合を介して長く連なったものである(図Aの左端の構 造)。ここで、RNA分解酵素がホスホジエステル結合を切断する場合を考えてみると、その反応中間体では、結合に使われていたリン酸基が、糖の2'の位置 と3'の位置とで環状構造をなす(図A中央)。その後に、3'側に線状構造となったリン酸基が出ることが知られている(図A右端)。このようなRNA鎖の 末端構造は、RNA鎖の連結を考える時にも極めて重要な因子であることが報告されている(Kanai, A. 他 (2009) RNA15: 420-431)。

 慶應義塾大学先端生命科学研究所のRNA研究グループの佐藤朝子氏らは、超好熱性のアーキア(古細菌)であるパイロコッカス菌(Pyrococcus furiosus)のRNA連結反応を調べている過程で、RNA鎖の3'末端にあるリン酸基を環状構造にする新しい酵素を見いだした(図B)。この新しい酵素を、Pf?Rtc(Pyrococcus furiosusのRNA 3'-terminal phosphate cyclase)と命名した。本酵素のアミノ酸配列は、アーキアの中で非常に良く保存されており、さらには、バクテリアから真核生物に至る幅広い生物にお いて、類似の酵素が存在していた。そこで、本酵素におけるリン酸基環状化の活性を詳細に調べてみたところ、これまでに報告されているRtcタンパク質がい ずれもATP依存的に働くのに対して、Pf-Rtcでは、GTP依存的に活性化されることがわかった。ATPと比べてGTPの方が10倍も効率的にPf-Rtc を活性化することが示され、世界初のGTP依存性RNA cyclaseとして提唱することが出来た(図C)。さらには、様々なGTPアナログを用いた解析や、酵素反応前後の反応液のTOF-MS(飛行時間型質 量分析計)解析により、環状化反応において、GTPがGMPに分解される必要があることを明らかにできた。RNA鎖の末端を環状構造に変えるということ で、おそらくは、多様なRNA断片が無秩序に連結してしまわないような仕組みがあるのではないかと想像される。

 2011年に米国と ウィーンのグループにより、アーキアとヒトから、イントロンが除去された後のtRNA前駆体の連結に関わる酵素の報告があり、この連結酵素はRtc Bと呼ばれるタンパク質のファミリーに属していた。面白いことに、大腸菌のゲノムにおいて、Rtc BはPf-Rtcの相同タンパク質と考えられるRtc Aに隣接する形でコードされていることがわかった。アーキアのtRNA前駆体プロセシングにおけるPf-Rtcの関与は未知であり、今後の研究により両者の関連性が明らかになることを期待したい。

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図:RNA 鎖の3'末端にあるリン酸基をGTP依存に環状化させる新しい酵素の発見。(A) RNA中のホスホジエステル結合とRNA分解酵素による切断過程の模式図。中間体としてRNA鎖の末端に環状型リン酸が生成される。(B) PF1549タンパク質(Pf-Rtc)はRNA鎖の3'末端にあるリン酸基をGTP依存に環状化させる。(C) Pf-Rtcは効率よくGTPを利用して環状型のリン酸構造を作る。環状型のリン酸基と線状型のリン酸基をもったRNAは尿素存在下の変性電気泳動にて分 離、区別することが出来る。

[ 編集: 池田香織 ]

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