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大腸菌における低分子RNAのゲノムワイドな同定

ECSBrowser:世界初の大腸菌低分子RNAブラウザの開発

Shinhara, A., Matsui, M., Hiraoka, K., Nomura, W., Hirano, R., Nakahigashi, K., Tomita, M., Mori, H., Kanai, A. (2011) Deep sequencing reveals as-yet-undiscovered small RNAs in Escherichia coli. BMC Genomics. 12, 428.

  低分子RNA (small RNA; sRNA)というと、ヒト、マウス、線虫、植物などの真核生物で見いだされた、遺伝子の発現や制御に深く関与している20塩基長程度のマイクロRNAが有 名だが、バクテリアなどの原核生物では50?200塩基長のsRNA分子が存在している。大腸菌ではこれまでに約100種のsRNAが同定され、さらに約 1,000種が予測されているが、その正確な数や分布は明らかになっていない。一部は特定の遺伝子の発現や翻訳を制御することが報告されているものの、大 多数のsRNAについては機能未知である。そこで政策・メディア研究科修士課程の新原温子氏らのグループ(2010年当時)は、大腸菌におけるsRNAの 全体像を俯瞰することを目的として、ハイスループットシーケンサを用いた低分子量RNA (<200塩基長) の網羅的な解析を行った。

 

 その結果、今回の解析結果と既知の遺伝子の転写開始領域の情報を組み合わせる事により、新規sRNA候補を229種抽出した。このうち、遺伝子間 領域に位置している8種のsRNA候補と、mRNA遺伝子の逆鎖側にコードされている3種のcis型アンチセンスRNA候補はノザン解析法によって推定し た転写単位と一致し、これまでに考えられていた以上にsRNAをコードする領域が実際のゲノム上に存在していることを明らかにした。

 興 味深い事に5種の新規sRNAはプロファージ領域に由来していることが分かった。これは、細菌に感染して増殖するバクテリオファージのDNAが大腸菌のゲ ノムに組み込まれた領域である。また、4種のsRNAについては温度ストレスにより発現量が増加した。従来の多くのsRNAは環境ストレスに応じて特異的 な条件下でのみ発現する制御因子として知られていたが、これらの新規sRNAは通常の増殖時にも発現していたのである。

 さらに、本研究 においては、予測・同定された新規sRNAに加えて既知のsRNAに関する11報の論文情報をまとめ、世界初の大腸菌低分子RNAブラウザとして発表して いる; Escherichia coli small RNA Browser (ECSBrowser; http://rna.iab.keio.ac.jp/) (図)。ECSBrowserは大腸菌のゲノム上で既知の遺伝子の領域や配列とともに、既知、新規あるいは予測されたsRNAの領域や配列情報を体感出来 る。sRNAの探索や機能推定などを含めた、今後の大腸菌トランスクリプトーム解析に活用される事を大いに期待したい。


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図:大腸菌低分子RNAブラウザー (Escherichia coli Small RNA Browser;ECSBrowser)のスナップショット
  本論文で予測、同定された新規sRNAと既知sRNAのアノテーション情報を統合してECSBrowserを構築した。上段は大腸菌ゲノム全体における non-coding RNA (ncRNA)のオーバービュー、中段はCPS-53プロファージ領域まで拡大、下段はさらにECS009 sRNA領域まで拡大して示している。

[ 編集:喜久田薫 ]

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