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メタボローム解析による糖尿病性腎症の血清バイオマーカー探索

5種類の代謝物の組み合わせにより、腎症の発症を高精度に予測できる

Hirayama, A., Nakashima, E., Sugimoto, M., Akiyama, S., Sato, W., Maruyama, S., Matsuo, S., Tomita, M., Yuzawa, Y. and Soga, T. (2012) Metabolic profiling reveals new serum biomarkers for differentiating diabetic nephropathy. Anal Bioanal Chem. 404:3101-9.

  糖尿病性腎症は糖尿病の三大合併症の一つであり、腎臓の糸球体が硬化し、腎機能が悪化する病気である。個人差はあるものの、初期の自覚症状は少なく、適切 な処理を施さずに放置しておくと15~25年で末期腎不全に移行するといわれている。現在では人工透析を受ける患者の原因疾患第一位がこの糖尿病性腎症と なっている。現状、糖尿病性腎症の診断には、尿中アルブミン/クレアチニン比(urinary albumin-to-creatinine ratio; UACR)と推定糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate; eGFR)が用いられるが、これらの指標は腎症が進行した段階になるまで変化が現れないため、より早期に糖尿病性腎症を診断するマーカーの開発が必要と なっている。glomerular filtration rate; eGFR)が用いられるが、これらの指標は腎症が進行した段階になるまで変化が現れないため、より早期に糖尿病性腎症を診断するマーカーの開発が必要と なっている。

 今回平山特任助教らは、糖尿病を罹患しており腎症を発症していない群(N=20)、軽度腎症群(N=32)、重度腎症群(N=26)、計78名の 血清サンプルをキャピラリー電気泳動-飛行時間型質量分析装置(CE-TOFMS)によりイオン性低分子を一斉分析し、糖尿病性腎症のバイオマーカー探索 を行った。

 その結果、患者血清サンプル中より289種の代謝物由来のピークを検出し、OPLS-DA(直交部分最小二乗法判別分 析:Orthogonal partial least squares-data analysis)により、19種のバイオマーカー候補を得ることができた。このうち8物質に関しては、キャピラリー内での物質の移動時間と精密質量数よ り同定が可能であり、それぞれクレアチニン、アスパラギン酸、g-ブチロベタイン、シトルリン、SDMA(シンメトリックジメチルアルギニン)、キヌレニ ン、アゼライン酸、ガラクタル酸であることが明らかになった。

 これらの代謝物においては、UACRやeGFRと有意な相関関係が見ら れ、腎機能の低下を推定する優良なバイオマーカー候補になると考えられた。また、アゼライン酸、ガラクタル酸に関しては他の代謝物と逆の傾向が見られ、こ れらは特に特異性の高いバイオマーカーとして有望であることが示唆された。

 最後に、さらに鑑別能を上げるため、多変量解析手法の一つである多重ロジスティック回帰分析を行った結果、g-ブチロベタイン、SDMA、アゼライン酸をはじめとする5種類の代謝物の組み合わせが判別能を上げるのに最も寄与することが分かった(図)。

  以上のことより、CE-MSを用いたメタボローム解析は糖尿病性腎症のバイオマーカー探索に有効な方法であることが示され、また多変量解析手法を組み合わ せることにより、さらに診断能を向上させることが可能であることを示した。今後、平山らはさらに検体数を増やし、モデルの評価を行う予定であるが、本研究 が糖尿病性腎症の早期発見、早期治療につながることに大いに期待したい。


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図:多重ロジスティック回帰モデル
  ここに示す5種類の代謝物を組み合わせた際に、もっとも診断精度が上がった。診断力を表す指標であるReceiver Operating Characteristic Curve (ROC曲線) のArea under the curve (AUC値) は0.927であり、それぞれ単独のマーカーを使うより良い結果であった。また、クロスバリデーションテストを行った結果、AUCは0.880となり、こ のモデルは普遍性が高いということが示された。

[ 編集: 川崎翠 ]

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