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細胞周期におけるmicroRNAの役割の解明

静止期から細胞増殖を再開する際のmiRNAによる遺伝子発現制御ネットワークを明らかに

Iwasaki, W., Y., Kiga, K., Kayo, H., Fukuda-Yuzawa, Y., Weise, J., Inada, T., Tomita, M., Ishihama, Y. and Fukao, T. (2013) Global MicroRNA Elevation by Inducible Exportin 5 Regulates Cell Cycle Entry. RNA. 490-7.

  microRNA(miRNA)は20塩基程度の小さなRNA分子であり、翻訳はされずにそれ自身が標的となるmRNAと結合することによって遺伝子発現 制御を行う。miRNAは発生や分化、細胞増殖、老化、代謝、疾患など生体内の様々な現象に関与するため、これまでよく知られていると思われていた生命現 象においても思わぬ重要な役割を果たしていることがある。そこで、当時博士課程に在籍していた渡邉由香氏らはmiRNAと細胞周期の関連に着目し、細胞周 期におけるmiRNAの新たな役割の解明を目指して研究を行ってきた。

 細胞周期とは一つの細胞から二つの娘細胞が生まれるまでの周期を指す。細胞周期には決まった順番の期が存在し、DNA合成準備期(G1)、DNA 合成期(S期)、分裂準備期(G2)、分裂期(M期)を順に繰り返すことによって細胞は増殖していく。ただし、この細胞周期は無制限に進行するのではな く、ある程度細胞が増えると静止期(G0)に入る。この静止期から細胞周期への出入りは細胞にとって非常に重要であり、例えば、がん細胞は静止期に入れな いため細胞増殖を繰り返してしまうのである。

 渡邉氏らはこの細胞周期とmiRNAの関連性を明らかにするために、静止期から細胞周期進入 時におけるmiRNAの発現量を観察した。その結果、T細胞を用いたin vivoの系およびマウス線維芽細胞を用いたin vitroの系において、miRNAの発現量が大きく上昇するという現象を見いだした。そこで、渡邉氏らはmiRNAだけでなくmiRNAを制御する因子 も同様に制御されているのではないかと考えた。解析の結果、この現象がmiRNA核外輸送タンパク質Exportin-5の翻訳量の増加に起因することが わかった。次に、この影響をシステムレベルで観察するため、トランスクリプトームおよびプロテオームの変動パターンを網羅的に測定・解析したところ、細胞 周期および増殖関連の遺伝子群の発現量に変動が観察され、その一部が実際にmiRNAの標的となっていることが示された。

 本解析によっ て、細胞周期進入時にExportin-5を介したmiRNAによるフィードバック制御が重要な役割を担っている可能性を示唆し、実際に細胞増殖および細 胞周期への影響を細胞レベルで確認することができた。先に述べたように、細胞周期の制御はがんと密接に関わっている。Exportin-5とmiRNAに よる制御ネットワークが細胞周期に与える影響を、より深く調べることによって、将来的にはがんの治療薬の開発に役立つことが期待される。

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図: 細胞周期においてmiRNA発現量が大きく変動する原因因子として、miRNA核外輸送蛋白質Exportin-5を見いだした。この影響をシステムレベ ルで観察するため、全遺伝子の変動パターンを測定し、情報学的に解析した。結果、細胞周期進入時にExportin-5を介した miRNAによるフィードバック制御が重要な役割 を担っている可能性を示唆した。

[ 編集: 池田香織 ]

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