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バクテリアの増殖効率とゲノム対称性の関係性を解明

複製挙動を人工的に対称化させることに成功

Kono N, Arakawa K, Sato M, Yoshikawa H, Tomita M, Itaya M. (2014) Undesigned selection for replication termination of bacterial chromosomes. J Mol Biol. 426:2918-2927.

遺 伝子工学技術の著しい発展により、新しい生命システムを設計し構築することが現実味を帯びてきており、それを目的とした合成生物学という領域が台頭し注目 されている。任意のゲノムを持つバクテリアをデザインするためには長い遺伝子群をつなぎ合わせる「長鎖遺伝子合成」と、遺伝子群から成る断片を作成しゲノ ムに組み込む「大規模クローニング」の技術が不可欠であるが、これらは近年大きく発展し、様々な分野で応用されるようになった。しかしながら、大規模なゲ ノム改変を行うとバクテリアの増殖効率を著しく低下させてしまうのが現状であり、細胞が安定して増殖できるようなゲノムデザインが望まれている。

野生型のバクテリア環状染色体は、その複製に最適化するようデザインされ、複製開始・終結点を軸とした対称な構造になっている。この軸を中心に塩基 組成の偏り、遺伝子方向性、そしてオリゴ配列の位置関係などが対称・非対称に秩序だって配置されており、この対称構造を乱したバクテリア株では増殖効率が 著しく低下してしまうことが知られている。バクテリアの増殖に影響を与えるいくつもの因子の中で、この環状染色体の特徴的なゲノム構造は根幹的因子であ り、バクテリアの安定した増殖に大局的な影響力を持っていると考えられている。そのため、大規模なゲノム改変後の安定した増殖を目指す上では、この対称構 造をいかに乱れさせないか、が重要になる。

そこで、河野氏らはゲノムに大規模な逆位変異を与えて対称構造を崩すことによって、ゲノム対称 構造と複製プロセスの関係性を検証し、対称構造を人工的に復元する手法の開発を目指した。対象種にはゲノム改変が容易な枯草菌を用い、変異株として約 1Mbpに及ぶ大規模な逆位株と、ゲノムの一部を第二染色体化した分断株を用いた。これら各変異株に対して超並列シーケンサーをもちいて複製挙動を観察し たところ、ゲノム構造における対称性の乱れによって、複製挙動の非対称性が生まれていることが確認できた(図左)。そのためこれら変異株を対象に、複製終 結関連遺伝子であるrtp遺伝子(大腸菌におけるtus遺伝子)を欠損させることで対称構造の回復を目指したところ、複製挙動を対称化することに成功した (図右)。

本研究によって得られた成果は大きく分けて二つある。一つは超並列シーケンサーをもちいることでバクテリアの複製挙動を包括的 に観察することを実現したことであり、これまで計算機的アプローチが主であった複製開始・終結点の決定を、実験的なアプローチからも容易に可能になった点 である。二つ目は合成生物学への貢献である。先に述べた通り、ケ?ノムテ?サ?インの分野て?は、ゲノム改変株の安定増殖か?残る大きな問題であった。し かしながらゲノム構造の人工制御が可能になったため、今後は本手法を応用することで、増殖に関わる他の因子を制御するシステムの開発も期待される。

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図:複製挙動の変化
(左 図)対称構造が乱された株では複製開始点(ori)から両方向に進行している複製(Replication fork)が左側の黒矢印(Ter sequences及びter')で停まってしまう。(右図)黒矢印に結合していたタンパク(RTP)を欠損させることによって、複製は同速度で進行し、 複製開始点と対称の位置(pol)で終結した。

[ 編集: 川本夏鈴 ]

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