慶應義塾大学先端生命科学研究所慶應義塾大学先端生命科学研究所

論文/ハイライト

HOME 論文/ハイライト 研究ハイライト 論文ハイライト ヒストン修飾と選択的スプライシングの関係性の解析

ヒストン修飾と選択的スプライシングの関係性の解析

組織特異的なヒストン修飾によってエキソンの取り込みが決定される可能性を示唆

Shindo Y, Nozaki T, Saito R, Tomita M. (2013) Computational analysis of associations between alternative splicing and histone modifications. FEBS Lett. 587:516-21.

不 思議な事に、生物の複雑さと遺伝子の数は比例しない。例えば、私たちヒトのゲノムは約2万の遺伝子を持つが、私たちよりもよほど単純に見えるハエもほぼ同 数の遺伝子を持つ。このように少ない遺伝子でヒトが複雑な生体を生み出している秘密は、「選択的スプライシング」という機構によることが明らかとなってき ている。真核生物における遺伝子の多くは、エキソンと呼ばれる単位に分割されてコードされており、タンパク質をつくる際にはスプライシングという機構に よってエキソンを繋ぎ合わせて鋳型となるmRNAが形成される。
この時、エキソンを連結する組み合わせを変えることで、同じ遺伝子からさまざまな mRNAをつくりだす機構が選択的スプライシングであり、これによってヒトは実際には10万種類を超えるタンパク質を作っていると言われている。一方、そ のメカニズムの全体像はまだほとんど明らかになっていない。

そこで新土氏らは、バイオインフォマティクスによりヒストン修飾と選択的スプライシングの全体的な傾向を探ることが重要であると考え、公共データ ベースから利用可能なmRNA-Seqデータ、Exon arrayデータ、およびヒストン修飾のChIP-Seqデータを統合的に用いた解析を実施した。まず、H1とIMR90と呼ばれる培養細胞から得られた mRNA-Seqデータから、どのエクソンがmRNAに取り込まれているか、あるいは取り除かれているかを推定した。一方、20種類以上のヒストン修飾に 関するChIP-Seqデータによって、H1とIM90のそれぞれに対して、ゲノム上におけるヒストン修飾の分布を決定した。ヒストン修飾の分布と mRNAへの取り込みの有無の関係を調べた結果、H3K36me3を含む数種類のヒストン修飾において、エクソンの取り込みに有意な差が観察されることを 明らかにした。このことは、ヒストン修飾がエクソンのmRNAの取り込み・取り除きと関係していることを示唆している。さらに、Exon arrayデータの解析により、H1とIMR90のどちらか一方の細胞でのみ特異的に使用されているエクソンを抽出し、ヒストン修飾特異性との比較を行 なった。その結果、H1細胞のみで使用されているエクソンはH1細胞のみでヒストン修飾を受けている場合が多く、IMR90細胞の場合も同様の傾向を示し ていた。また、データベースから利用可能であったH3K36me3というヒストン修飾に限られるものの、脳や肺などの生体組織由来の細胞においても同様の 傾向が観られた。以上の研究成果は、ヒストン修飾の組織特異性が、選択的スプライシングの特異性を決めている要因の1つである可能性を示すものである。

本 研究の情報学的解析の結果は、H3K36me3などのヒストン修飾によって、選択的スプライシングが制御されていることを示唆している。特に、ヒストン修 飾ならびに選択されるエクソンが各細胞ごとに特異的であることから、選択的スプライシングが細胞分化やその個性にも大きく寄与していることが予想される。 これらのヒストン修飾を含めたエピジェネティック修飾と選択的スプライシングの関係性を探ることで、細胞の分化機構の解明や発生学分野への貢献も期待され る。

Image

図:?細胞種特異的な選択的スプライシングパターンとヒストン修飾の関係性。

横 軸はSplicing index (SI) と呼ばれる指標であり、本研究の場合、SI > 1はH1細胞では取り込まれ、IMR90細胞で取り除かれているエクソンを示す(SI < -1はその逆)。縦軸は、各SIを持つエクソンがヒストン修飾受けている頻度を表す。H1細胞(magenta)が右肩上がりになっていることは、H1細 胞で特異的にmRNAに取り込まれているエクソンが、H1細胞でのみ特異的にヒストン修飾を受けていることを示している(IMR90細胞(green)で 右肩下がりになっていることはその逆)。

[ 編集: 川本夏鈴 ]

TOPへ