HOME 論文/ハイライト
研究ハイライト
論文ハイライト
生きた化石"カブトエビ"の進化に迫る
15.11.29
生きた化石"カブトエビ"の進化に迫る
(15.11.29)
山形県産ヨーロッパカブトエビにおけるmiRNAの大規模解析
miRNAは22塩基程度の小さいRNA分子であり、遺伝子発現における転写・翻訳を制御することにより、発生や形態形成、細胞増殖といった生命現 象において重要な役割を担っている。カブトエビの6つの発生段階(卵、1?4令幼生、成体)からTotal RNAを抽出し、small RNA画分におけるcDNAライブラリーを作成後、次世代シーケンス解析によりmiRNAの同定を試みた。同時にカブトエビゲノムを抽出し、これも解析す ることでカブトエビのドラフトシーケンスを作成した。このsmall RNA配列とドラフトゲノム配列を照合し、カブトエビにおける87 種の保存されたmiRNA、及び、93種の新規miRNAを同定した。また、ドラフトゲノム配列を用いて、miRNA制御タンパク(AGO, DICER)を推定した。 まず、6つの発生段階におけるmiRNAの発現変動を調べたところ、6ステージ中1ステージにのみ特異的に発現するmiRNAが複数見つかった(図 1B)。カブトエビは幼生期に形態が劇的に変化していることから、1ステージ特異的に発現するmiRNAと幼生の形態形成の関連性が予測された。次に、モ デル生物であるショウジョウバエと、カブトエビの発生におけるmiRNAの発現パターンを比較した。その結果、ショウジョウバエとカブトエビでmiRNA 配列は類似しているにも関わらず、両者は発生において異なる発現パターンを示した。この結果は、miRNAの役割が種によって異なる可能性を示唆してい る。 次に、進化の側面から、カブトエビとヒトやハエを含めた12種のモデル生物のmiRNA配列の比較を行った。その結果、予想していたように、カブトエビの miRNAの大半は節足動物に保存されていた。しかし興味深いことに、カブトエビのmiRNAのうちlet-7は節足動物より脊椎動物に近い配列を示し た。さらにmiRNA制御因子についても他生物種との相同性を調べてみると、DICERも節足動物より脊椎動物に近い特徴を示した。つまり、カブトエビ miRNAは基本的には節足動物と相同性があるが、一部は脊椎動物に近い特徴を有していることがわかり、これはカブトエビが他の生物とは異なる進化をして きている可能性を示している。 カブトエビの分子生物学的研究はまだまだ始まったばかりである。発生時期特異的に発現しているmiRNAの機能は何であるのか?どうしてカブトエビの miRNAの一部が脊椎動物のそれと特徴が似ているのか?"生きた化石"のドラフトゲノム情報が明らかになった今、カブトエビにどのような秘密が隠されて いるのだろうか。本研究のように、フィールドワークや観察、そして情報学的解析など、様々なアプローチによって全容が解明されていくことを期待したい。
図1:(A)発生過程におけるカブトエビの劇的な形態変化、(B)発生過程におけるカブトエビのmiRNAの発現プロファイル
[ 編集: 川本夏鈴 ]