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ジペプチドの一斉分析による肝細胞癌における特異的プロファイルの解明

新技術によって癌研究に新たな知見を提供

Ozawa H, Hirayama A, Shoji F, Maruyama M, Suzuki K., Yamanaka-Okumura H, Tatano H, Morine Y, Soga T, Shimada M, Tomita M. Comprehensive Dipeptide Analysis Revealed Cancer-Specific Profile in the Liver of Patients with Hepatocellular Carcinoma and Hepatitis. Metabolites 2020; 10:442. doi: 10.3390/metabo10110442.

生体内の代謝物を網羅的に測定するメタボローム解析は、医学や薬学をはじめとするさまざまな分野での応用が進められている。とりわけ、癌代謝研究においてメタボローム解析が果たしてきた役割は非常に大きく、新たな癌バイオマーカーや治療標的の探索等が可能になっている。一方、未だ一斉測定方法が確立されていない重要な代謝物の1つとしてジペプチドが挙げられる。ジペプチドは機能性生体材料として注目されており、疫病のバイオマーカーとして利用されているものもあるにも関わらず、ジペプチドの種類が400種類以上と膨大であることや、アミノ酸の結合順序が異なる構造異性体が存在することが一斉分析を困難にしていた。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程の小澤仁嗣氏、特任講師の平山明由氏らは、これまでに液体クロマトグラフィータンデム質量分析法(LC-MS/MS)とキャピラリー電気泳動タンデム質量分析法(CE-MS/MS)を併用したジペプチドの一斉分析法を開発し、361種類中335種類の構造異性体の分離を可能にしてきた。(過去ハイライト「LC-MS/MSとCE-MS/MSを併用したジペプチドの一斉分析法の開発」を参照)

 今回、小澤氏らはこの新技術を肝細胞癌に適用し、ジペプチドにおける癌特異的プロファイルの探索を行った。肝細胞癌はB型あるいはC型肝炎ウイルス感染による慢性肝炎を主要因とし、原発性の肝臓癌の中では最も一般的なものである。小澤氏らは、まず新技術を用いて肝細胞癌に含まれる236種類のジペプチドを検出した後、肝細胞癌(転移性癌も多少含まれる)の非腫瘍組織と腫瘍組織のジペプチドにおける主成分分析を行った。その結果、非腫瘍組織と腫瘍組織が第2主成分で分かれることから、非腫瘍組織と腫瘍組織の間でジペプチドのプロファイルが異なることが示された。また、検出されたジペプチドのN末端あるいはC末端のアミノ酸の構成を比較したところ、N末端ではアラニン(A)、アスパラギン酸(D)、イソロイシン(I)の割合が大きいことに対し、C末端ではリシン(K)、アスパラギン(N)、プロリン(P)、チロシン(Y)の割合が大きいことがわかった。これらは、セリンプロテアーゼのような酵素の基質特異性がアミノ酸の構成に現れていることを示唆しており、ジペプチドの一斉分析が可能になったことにより初めて解析できた結果である。

 さらに、小澤氏らは、ボルケーノプロットにより肝炎由来の腫瘍組織と非腫瘍組織におけるジペプチドのプロファイルの比較を行い、腫瘍組織ではジペプチドの量が全体的に減少傾向であることに対し、非腫瘍組織では全体的に増加傾向であることが分かった(図)。この結果から、肝炎由来の肝細胞癌が腫瘍発症前後で特徴的なジペプチドのプロファイルを示すことを明らかにした。

 今後、本技術により癌だけではなく様々な病気の特徴が解明されることが期待される。小澤氏は、「我々の技術により、様々な病気の特徴が解明され病気の治療に繋がることを願っております。」と語った。

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図.肝炎由来の検体と肝炎由来でない検体におけるジペプチドのプロファイルのボルケーノプロットによる比較(Mann-Whitney U-testによる統計解析、log2(倍率変化)は右になるほど肝炎由来の検体のジペプチドの量の比率が大きくなる)。

[編集: 安在麻貴子]

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