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定量メタボロミクスと分子類似性から見る漢方薬の「熱と寒」

漢方薬の薬理作用におけるメカニズム解明に向けて

Guo J, Wang J, Iino K, Tomita M, Soga T, Quantitative and Molecular Similarity Analyses of the Metabolites of Cold- and Hot-Natured Chinese Herbs, Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine, 2021, 6646507, (2021).

DOI:10.1155/2021/6646507

 漢方薬は「生薬」と呼ばれる自然界に存在する植物、動物、鉱物などの薬効となる部分を複数組み合わせて処方するオーダメイドな治療薬で、生薬の加減を患者の体質に合わせて行う。生薬は性質により熱、温、涼、寒に分類されており、これは「四性」或いは「四氣」と呼ばれている体系に基づいている。生薬の四性は漢方薬の組み合わせを決める際に考慮される重要なパラメーターであり、漢方薬の薬理作用、臨床応用、及び中国伝統医学の正確な説明や継承のために重視されてきた。しかしながらこの分類法は2000年以前から使用されてきた、という歴史に裏打ちされた経験則によるものが主流であり、分類基準を客観的・定量的に定める科学的根拠は未だに明らかとされていない。伝統重視に加え、そもそも生薬の成分を網羅的に測定し、包括的に評価する技術が不足していたという背景もその原因と考えられる。

 そこで慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程の郭セイ氏らはキャピラリー電気泳動−飛行時間型質量分析装置 (CE-TOFMS)を用いた全代謝物質解析(メタボローム解析)を生薬に対して行い、四性「熱と寒」分類の科学的妥当性検証を目指した。熱(温)性と寒性に分類されている代表的な植物性生薬を各15種類、計30種類対象としてメタボローム解析を行い、生薬に含まれる代謝物質416種類の同定に成功した。その結果、寒性生薬と熱性生薬の間で約40種類の代謝物質が有意差を示した。さらに物質構造に着目した比較では、熱性生薬にヌクレオチド類の物質が多く含まれている熱性生薬にヌクレオチド類の物質が多く含まれている傾向が見られた(図)。先行研究より細胞外ヌクレオチド類物質は炎症、免疫調節と関与していることが知られており、熱性生薬の免疫調節機能を裏打ちする結果が得られた。

 これらの結果は、漢方薬に内在する温熱性や冷寒性の決定に関わる全体的な分子メカニズムの解明に役立つと期待されている。郭氏は「植物性代謝産物測定の利便性や正確性が測定技術の発展によってさらに高まり、漢方薬の伝承及び発展に役立つ情報をもたらすことになるだろう」と展望している。

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図:熱性生薬と寒性生薬における各代謝物の濃度

  ヌクレオチド代謝物は熱性生薬の方が寒性生薬よりも多く含まれている。

[編集: 安在麻貴子]

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