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小型細胞外小胞(small extracellular vesicles, sEVs)メタボローム解析によるがん悪性化メカニズムの解明に向けて

常酸素および低酸素環境下で培養した膵臓がん細胞由来の小型細胞外小胞におけるメタボローム解析

Hayasaka R, Tabata S, Hasebe M, Ikeda S, Ohnuma S, Mori M, Soga T, Tomita M, Hirayama A, Metabolomic Analysis of Small Extracellular Vesicles Derived from Pancreatic Cancer Cells Cultured under Normoxia and Hypoxia. Metabolites, 11(4), 215, (2021).

DOI: 10.3390/metabo11040215

 膵臓がんは米国および日本においてがん関連死の第4位を占めており今後も順位が上がることが予想される。また、日本における膵臓がんの生存率は15.1%であり、全てのがんのなかで予後が非常に悪いことが知られている。膵臓は腹部の奥深く、他の臓器や血管に囲まれて位置しており、腫瘍があっても見つかりにくく診断のための組織採取も難しい。このため早期発見が困難であること、局所浸潤や急速な転移が起きやすいことなどが予後不良の原因として挙げられる。さらに低酸素も影響していると考えられている。中でもエクソソームなどの細胞外小胞(extracellular vesicles, EVs)は細胞間コミュニケーションの一部として機能し、がん細胞が放出するEVsが、血管新生や遠隔転移をはじめとするがんの悪性化に関与することが報告され近年注目を集めている。しかしながら、EVsに含まれている親水性代謝物質に関する情報は不明点が多かった。EVsは微量であり回収量が限られ、また代謝物質は増幅不可能であることが要因と考えられる。

 そこで慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程の早坂氏らは、キャピラリーイオンクロマトグラフィー-質量分析法(capillaryIC-MS(cap IC-MS))、 液体クロマトグラフィー-質量分析法 (LC-MS)、 超臨界クロマトグラフィー-質量分析法 (SFC-MS)を用い、EVs中の代謝物質を感度よく測定する方法を開発した。エクソソームに近い直径200μm以下の小型細胞外小胞(small extracellular vesicles, sEVs)を対象とし、異なる酸素濃度下で培養した膵臓がん細胞株PANC-1と、そこから放出されたsEVsの網羅的な代謝物質解析を行った。工夫した点として、使用する培地や培養条件を最適化し、微量なsEVsの回収に必要な培養上清の量とメタボローム解析に適した回収方法の検討を行った。この結果、sEVsに存在する親水性代謝物質として過去最大規模の140種類、脂質が494種類を同定し、さらにそれらの組成が示すsEVsの代謝物質プロファイルが細胞のものとは異なっていることを発見した。また、がんの微小環境の1つである低酸素ストレスによって、sEVs中の代謝物質プロファイルの変化も観察され、血管新生に関わる代謝物質の含有も明らかとなった(図)。

 これらの結果は、EVsを媒介としたがんの悪性化の理解に役立つと期待されている。早坂氏は「今後もメタボローム解析技術を用いて、がんの悪性化メカニズムの更なる解明に貢献していきたい。」と語った。

(a)
図1.png

(b)
図2.png

図:本研究で用いられた解析法とその結果

(a)3種のメタボローム解析により小型細胞外小胞(sEVs)より親水性代謝物質
  140種類、脂質494種類同定

(b)親水性メタボロームデータに基づくサンプルの主成分分析

  常酸素時と低酸素時のサンプルが分離された。

[編集: 安在麻貴子]

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