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原核生物におけるイントロンの広がりを明らかに

原核生物ゲノムからのグループIIイントロンの網羅的抽出

Miura MC, Nagata S, Tamaki S, Tomita M, Kanai A, Distinct Expansion of Group II Introns During Evolution of Prokaryotes and Possible Factors Involved in Its Regulation, Frontiers in Microbiology, (2022).

DOI: 10.3389/fmicb.2022.849080

 地球上の生物は30億年以上かけて、細胞内に核を持たない原核生物(微生物)がさまざまな進化を遂げ真核生物が生まれたとされている。我々ヒトを含む動物や植物などの多細胞生物のほとんどは真核生物であるが、原核生物から真核生物へ進化したプロセスには、未だ多くの謎が残されている。

 大部分の生物のゲノム(全ての遺伝情報)には、互いに類似した繰り返し様領域が見出されており、これらの一部は「転移因子」と呼ばれる細胞内を動き回るDNA領域が、過去に自身のコピーを増やした痕跡である。ヒトのゲノムの半分程度は転移因子に由来する配列であるため、転移因子は真核生物のゲノム進化に大きな影響をもたらしてきたと考えられる。このことから、原核生物 (微生物) における転移因子の一種である「グループIIイントロン」も、真核生物の進化を考える上で重要な因子と示唆されているが、現在利用可能な数万個の原核生物ゲノムのうち、これらのイントロンを包括的に解析したものは限られている。

 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程の三浦昌浩氏らは、真核生物におけるRNAスプライシングの過程でグループIIイントロンと類似した構造が形成されていることに着目し、グループIIイントロンが転移・変化することで真核生物のスプライシング機構が生じた可能性が高いと考えた。そこで、グループIIイントロンを系統的に収集する解析ツールを開発し、約15,000種の原核生物ゲノムに適用した。得られたデータを宿主ゲノムの系統情報とともに分析し、1ゲノムあたりの個数といったグループIIイントロンの全体像をとらえた (図)。その結果、グループIIイントロンの個数は微生物の分類群ごとに差があり、異なった様相を示していた。

 これらのデータセットは全て論文の supplementary material として公開されており、他の研究者による原核生物のゲノム解析の際にも有用だと考えられる。さらに次のステップとして、グループIIイントロンの増加に影響を与える要因を検討した結果、少なくともグループIIイントロンの1ゲノムあたりの個数は、グループIIイントロンのタイプや宿主のタイプに影響を受けていることが明らかとなった。さらに三浦氏らはゲノム上のいくつかの特徴とグループIIイントロンの増加との関連性も検討したが、生物種によって異なる方法が採られている可能性が示唆された。おそらく、グループIIイントロンの伝播・増加に対しては、複数の要因が複雑に絡み合って影響を与えていると推測される。

 本研究は、1万を超える原核生物ゲノムにおいてグループIIイントロンの全体像を系統的に明らかにした初めての研究である。三浦氏は「査読においてレフェリーからは、緻密な解析である点、今後のさらなる研究に有用である点を評価していただきました。世界にはグループIIイントロンを研究テーマの中心としている研究室がいくつかあります。そういったグループを初めとして多くの方に論文を読んでいただき、様々な角度から我々の説に対する検証が進んでいけば嬉しいです。」と語った。進化における謎の解明に向けて、今後のさらなる研究に大きく貢献すると期待されている。


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図:バクテリアの系統樹と1ゲノムあたりのグループIIイントロンの個数
バクテリア代表種 (1,774ゲノム) の系統樹において、それぞれのゲノムが持つグ ループIIイントロンの個数を棒グラフとして示した。系統樹の左側に代表的なバクテリア門 (分類群) を表し、各門に対応する系統樹の枝を色別で示した。

[編集: 安在麻貴子]

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