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HOME 論文/ハイライト 研究ハイライト 研究者インタビュー 齊藤 康弘特任講師

齊藤 康弘特任講師

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─現在の研究テーマについて教えて下さい。

 乳がんを対象として、がんがどのように悪くなっていくのか、主に細胞極性とがんの関わりを研究しています。細胞極性というのは、体の内と外を隔てる上皮細胞が持つ上と下といった空間的な方向性のことです。上皮細胞では特に頂端-基底極性と呼ばれる細胞極性をもっています。細胞極性は細胞極性タンパク質によって制御されていますが、私は細胞ががんになったとき、細胞極性タンパク質ががん細胞の中でどのように働いて、どのような影響を及ぼすのかを調べています。最近では、ハーバード大学医学大学院(アメリカ・ボストン)との共同研究にて、細胞極性タンパク質がアミノ酸の細胞内取り込みを制御し、そのアミノ酸が乳がん細胞の増殖に重要であることを見つけました。それを慶應義塾大学先端生命科学研究所(以降IAB)で、新たな乳がん治療法開発に向けて発展させようという段階です。


─研究のポリシーは何ですか。
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 二つあります。一つ目は、自分が面白いと思える研究をすることです。様々な研究がありますが、結果は出るけど面白くないものもあります。面白いと思う純粋な探究心と情熱を常に持ち、研究に取り組んでいます。二つ目は、ソリッドサイエンスといって確かなサイエンスをやることです。具体的には一つの仮説を調べるのに様々な実験アプローチすることが重要だと考えています。例えば、一つ実験を行うにしても、実験の仮説に対して適切なポジティブコントロールとネガティブコントロールを必ずおいて実験しています。今となっては意識しなくてもできますが、駆け出しのころは徹底して教育され研究者としての重要な土台になったと思います。この経験から、確かなサイエンスをやることをポリシーとしています。

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─影響を受けた人、また研究者になったきかっけは何ですか。

 影響を受けたのは今までお世話になった指導教員の方々です。特に、現、東京大学大学院医学系研究科の畠山昌則教授に指導して頂いたことは今の研究者としての礎となってます。研究者になったきっかけは、今思い出してみると、大学で生物学を本格的に学び始めてからだったと思います。自分の研究分野を極めるため、博士になるという目標はありました。初めはサケ科魚類の染色体構造を調べていましたが、最先端の分子生物学研究を行いたいと考え、博士後期課程からはがん研究に研究テーマを変更し、現在に至ります。


─鶴岡で研究をする意義は何でしょうか。
saito-3.JPG IABは世界に先駆けて開発した代謝物質(メタボローム)解析技術が発展しているという点が、私にとって非常に魅力的で意義深いです。IABに来る前までは細胞極性とがんの関係性に注目し、乳がん細胞における細胞極性を制御するタンパク質ががん細胞のアミノ酸取り込みを制御するということを解明しました。がん細胞におけるアミノ酸取り込みが、どのようにがん細胞の代謝に重要なのかを深く知りたいと考えていた時に、タイミング良くIABの曽我朋義教授の研究室で募集がありました。これは何かの縁だろうと思い、すぐに応募し現在に至ります。今まで、札幌・東京・カナダのトロント・アメリカのボストンなど都市にもおり、研究するにもそれぞれの良さがありましたが、鶴岡という土地も研究者として惹きつけるものがあったと実感しております。



─最後に今後の展望をお聞かせください。

 現在の研究テーマでお話しした「新たな乳がん治療法開発を発展させる」ことが一つあります。乳がんは女性に最も多いがんで、世界的にも罹患率・死亡率が非常に高いがんです。研究が応用や実用に結びつくまでは時間がかかりますが、5年後、10年後の先を見据えて、がん基礎研究やがん治療の発展に邁進していきたいと思っています。また、患者さんや社会に何か直接還元できるような成果を成し遂げたいと思っています。

─ありがとうございました。

(2021年4月26日 インタビューア:安在 麻貴子 写真:岩井 碩慶)

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