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メタボローム解析で急性肝炎のバイオマーカーを発見

慶應義塾大学環境情報学部・先端生命科学研究所の冨田勝学部長、曽我朋義教授らと慶應義塾大学医学部医化学教室の末松誠教授の研究グループは、新規 に開発したメタボローム(細胞内の全代謝物の総称)測定法を用いて、アセトアミノフェンによって引き起こされる急性肝炎の血中バイオマーカーを発見しまし た。アセトアミノフェンは解熱鎮痛薬として広く使われていますが、大量摂取すると急性肝炎を誘発することが知られており、米国では毎年100人以上がアセ トアミノフェン中毒で死亡しています。

先端生命研で開発したキャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)によるメタボローム解析技術は、細胞から一度に数千個の代謝物質の分析を初めて可能 にするなど、世界的な注目を集めています。今回、従来法に比べ数倍以上の高感度化と数十倍の高速測定を可能にしたキャピラリー電気泳動-飛行時間型質量分 析計(CE-TOFMS)を開発しました。またメタボローム測定で得られた膨大なデータの中から変動のある代謝物を瞬時に探索するソフト(名称:メタボ ロームディファレンシャルディスプレイ)を開発しました。これらの新規メタボローム解析技術を用いて、アセトアミノフェンをマウスに過剰投与し、肝臓細胞 内と血液中の代謝物質の変動を網羅的に測定したところ、急性肝炎発症時に、薬物に対して解毒作用を持つグルタチオンの枯渇に伴い、ある物質が肝臓細胞内お よび血液中で急増していることを発見しました。
 
慶大グループは、この物質がオフタルミン酸であることを特定しました。また、グルタチオ ンの減少によってグルタミルシステインシンセターゼという酵素が活性化し、オフタルミン酸が生合成されるメカニズムも解明しました。肝臓中で増加したオフ タルミン酸は血液中に瞬時に輸送されるため、血中のオフタルミン酸濃度も急上昇することも見つけました。このバイオマーカーがヒトでも確認できれば、血液 中のオフタルミン酸濃度を測定することにより、薬物による急性肝炎や酸化ストレス病態の早期の診断が可能になります。

これは文部科学省リーディングプロジェクトの細胞・生体機能シミュレーションプロジェクトの研究成果であり、米国生化学分子生物学会誌 Journal of Biological Chemistry電子版に4月11日掲載されました。

曽 我教授は、「ここ数年、世界中の医学、製薬の研究機関、企業がバイオマーカーの発見にしのぎを削っているが、新しいバイオマーカーはほとんど発見されてい ない。私たちが開発したメタボローム解析法はバイオマーカー探索においても非常に有用な技術であることが証明できた。今後、このCE-TOFMS法が低分 子バイオマーカー発見の強力な手段になるはず。」と話しています。
また、末松教授は、「今回の成果にはメタボロームの膨大な測定情報を効率よく解 析して、研究者に視覚的に本質を伝えるメタボロームディファレンシャルディスプレイなどのユーザーインターフェイス技術開発に関するブレイクスルーができ たことの貢献が極めて大きく、分析化学、生化学、医学、コンピュータサイエンスの異分野融合学際プロジェクトの成果になった。」と語りました。


このニュースは下記のメディアでも報道されました。

・Biotechnology Japan「慶應大学、メタボローム解析で消炎鎮痛剤が誘導する急性肝炎のマーカー発見
・山形新聞 4/13 20面
・荘内日報 4/14 1面
・日刊工業新聞 4/17 8面
・朝日新聞 4/18夕刊 3面

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