慶應義塾大学先端生命科学研究所慶應義塾大学先端生命科学研究所

ニュース&イベント

HOMEニュース&イベント 2007年 IAB、立教大学との共同研究で新型tRNA遺伝子の発見に貢献

2007年のニュース

IAB、立教大学との共同研究で新型tRNA遺伝子の発見に貢献

慶應義塾大学先端生命科学研究所(IAB)の冨田勝所長、金井昭夫教授らの研究グループ(同大学大学院政策・メディア研究科修士課程1年菅原潤一 君、後期博士課程1年谷内江望君)は、立教大学生命理学科関根靖彦准教授らの研究グループとの共同研究で、独自に開発を進めてきたソフトウェアを用いて、 新しい分子構造を持った新型のtRNA遺伝子を発見することに大きく貢献しました。その研究成果は米科学誌「Science」10月19日号に立教大学との共著論文で報告されました。IABでは今年4月にも大腸菌の代謝研究で「Science」に論文を掲載しています。

 tRNAとは、細胞内でタンパク質を合成するさいに、タンパク質の構成単位であるアミノ酸を「運搬」する役割を持つ分子です。ところが、20億年前に誕生し、地球最古の真核生物と考えられている原始紅藻シゾン(学名:Cyanidioschyzon merolae)においては、生命活動を維持するために必須であるはずの運搬役tRNA遺伝子の多くが未発見であり、大きな謎とされてきました。 

 研究グループはこれまで、tRNA遺伝子をゲノム配列から網羅的に探索する新規のソフトウェア、SPLITS の研究開発を独自に進めてきました。今回同グループは、SPLITSを用いてシゾンゲノムの大規模解析をおこない、シゾンにおいて未発見であったtRNA 遺伝子を一斉に予測することに成功しました。同グループはシゾンで発見したtRNA遺伝子が、通常のものとは異なり、遺伝子配列が半分に分かれ、さらにそ れらが逆転してDNA上にコードされている「新種」であることをコンピューター解析によって示唆しました。さらに、この予測結果をもとに共同研究先の立教 大学生命理学科関根靖彦准教授らの研究チームが分子生物学的な実験をおこない、それらのtRNA遺伝子が細胞内で発現し、環状構造を形成するなどの複雑な 加工を経たのち、実際に機能していることを証明しました。慶大IABの開発したソフトウェアが、tRNAの新種発見に大きく貢献した形となりました。  

  原始的な生物でこのような特殊な遺伝子を発見した本研究成果は、tRNA遺伝子の起源や進化の解明に寄与するものです。また遺伝子情報が分かれて、逆転し た形でDNA上にコードされるという新規メカニズムは、近年次々と解読されているゲノムDNA配列から生命情報を読み出していく上で斬新な視点を与えるも のであり、生命情報の解明、生命科学の発展に大きく貢献すると期待されます。

TOPへ