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メタボローム解析でアルツハイマー病診断法の開発へ

 山形県鶴岡市の慶應義塾大学先端生命科学研究所(冨田 勝所長)と愛知県大府市の国立長寿医療センター研究所(田平 武所長)の滝川修省令室長のグループは、メタボローム(生体内代謝物の総称)測定法を用いて、アルツハイマー病など認知症の新規診断用バイオマーカーの探 索研究に着手することを発表しました。

 特にアルツハイマー病は高齢者認知症の大半を占める神経変性疾患であり、急速に高齢化が進む日本や欧米ですでに約1800万人が発症し、2025 年には倍増すると試算されています。アルツハイマー病の診断は容易ではなく、現在、本疾病に特有の脳に蓄積するアミロイド蛋白を陽電子放出断層撮影 (PET)でイメージングする画像診断方法の開発が進められています。しかし、PET診断は高価で特殊な大型装置を必要とすることから広く普及するには課 題も多く残っています。PET診断を補助するより簡便な診断方法(バイオマーカー)の開発が強く望まれています。

 アルツハイマー病は炎 症性の神経変性疾患であり、炎症性代謝産物の増加や神経伝達物質の代謝異常が生じます。また、アミノ酸やコレステロール代謝異常などを伴うことも知られて います。今回の研究では、慶大先端生命研の曽我朋義教授らが開発したキャピラリー電気泳動―質量分析計(CE-MS)によるメタボローム解析技術を応用 し、アルツハイマー病疾患モデルマウスの尿、血液、脳組織を用いて本疾病に特有の代謝異常を反映する低分子代謝産物(バイオマーカー)を探索します。アル ツハイマー病発症前に変動する代謝産物、さらに軽度認知症からアルツハイマー病への移行過程で変動する代謝産物が同定できれば、それらはアルツハイマー病 の早期診断を可能し、予防法や治療薬の開発において有用であります。国立長寿医療センター研究所や製薬メーカーが現在開発中のアルツハイマー病に対するア ミロイドワクチンの治療効果の判定にも活用できます。

 慶大先端生命研が開発したメタボローム測定法(CE-MS)は、従来法に比べ数倍 以上の高感度化と数十倍の高速測定を可能にしており、一度に数千個の代謝産物の定量解析を初めて可能した新技術で世界的な注目を集めています。今回の研究 により、従来の分析法で見逃がされていたアルツハイマー病に特有のバイオマーカーが発見され、その新規マーカーから発症の分子メカニズムの解明が進む可能 性もあり、その成果が大いに期待されます。

 先端生命研の冨田所長は「私たちの研究所が過去7年間に蓄積してきた技術を医療に応用する絶好の機会をいただきました。アルツハイマー病の早期診断法を世界に先駆けて確立したい。」とコメントしています。

 国立長寿医療センター研究所の滝川 修省令室長は「アルツハイマー病などの代謝異常の研究ではこれまで数種類の代謝産物の追跡が限界でした。メタボロー ム技術の登場で代謝変動全体を網羅的に調べることが可能になったことは画期的です。今回の研究成果として、早期診断に利用できる低分子バイオマーカーで、 特に患者に全く苦痛を与えず頻回測定できる尿中のバイオマーカーの発見を期待している。」とコメントしています。

 このニュースは下記のメディアで報道されました。

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