慶應義塾大学先端生命科学研究所慶應義塾大学先端生命科学研究所

ニュース&イベント

HOMEニュース&イベント 2008年 植物タンパク質のリン酸化部位の大量同定に成功

2008年のニュース

植物タンパク質のリン酸化部位の大量同定に成功

 慶應義塾大学先端生命科学研究所(冨田勝所長)と独立行政法人理化学研究所 (野依良治理事長)は、共同で植物の大規模なリン酸化部位の同定に成功し、植物でもヒト同様にタンパク質のリン酸化を積極活用している状態などを明らかにしました。これは、慶應義塾大学先端生命科学研究所の石濱泰准教授、ヒューマン・メタボローム・テクノロジーズ株式会社 (菅野隆二社長)の杉山直幸研究員らの研究チームと理研植物科学研究センター (篠崎一雄センター長)植物免疫研究チームの白須賢チームリーダー、中神弘史研究員らによる共同研究の成果です。

 生物は、多種多様な方法を持って外界の変化に対応し、自身の生存もしくは種の保存を試みます。植物は動いて逃げることができない(移動手段を持た ない)ため、自身の変化が生育環境の変化や病原体の攻撃から免れるための最大の手段となっています。外界の変化を特定の刺激として認識し、自身の変化を遂 げる過程において、細胞内レベルでは、多数のタンパク質性因子が変化を導くための信号の受け渡し(シグナル伝達)を行っています。タンパク質のリン酸化 は、シグナル伝達を行う際のバトンのような役割を担っており、細胞内でのリン酸化の状態を網羅的に把握することは、植物の柔軟な適応能力の理解に大いに役 立つと期待されています。

 近年の目覚ましい質量分析計関連技術の発達は、タンパク質上のリン酸化部位の同定を比較的容易にしました。しかし、細胞粗抽出液のように非常に複雑なタ ンパク質集団のリン酸化部位を網羅的に解析するためには、まだ乗り越えるべき課題が数多くあります。本研究は、植物材料用にリン酸化タンパク質の精製・濃 縮法の改良および最適化を行い、植物の細胞粗抽出液からタンパク質集団のリン酸化の状態を大規模に解析することに世界で初めて成功しました。その結果、こ れまで植物であまり注目されていなかったチロシン残基のリン酸化が予想外に多く起こっていることがわかりました。同定したリン酸化部位の情報は、世界中の 研究者が自由にインターネット上で検索できるように慶應大先端生命研ペップベースおよび理研オミックブラウズ※1にて公開しています。今後、ますます深刻 になっていく食糧や燃料問題の解決のために重要である、より優れた植物資源の研究開発に大きく貢献すると期待できます。

 この研究成果は、欧州の科学雑誌 Molecular Systems Biology 』のオンライン版(5 月6 日付け:日本時間5 月6 日) に掲載されました。

このニュースは下記メディアでも報道されました。

※1 慶應大先端生命研ペップベースおよび理研オミックブラウズ
慶應大先端生命研ペップベースとは、高精度質量分析計を用いたショットガンプロテオーム解析で取得した情報を中心とするペプチドデータベース。
また理研オミックブラウズとは、理研横浜研究所生命情報基盤研究部門の豊田哲郎部門長らの研究グループが開発した、ゲノム上に存在する遺伝子などの様々な情報(アノテーション情報)関する多数のデータベース群を同時に検索して可視化するソフト。

詳細は、2008 年3 月19日プレスリリース(http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2008/080319/index.html )参照。
各リン酸化部位情報は慶應大ぺップベース(http://pepbase.iab.keio.ac.jp/phospho/msb )中のリン酸化ペプチド測定データへもリンクしている。

TOPへ