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2010年のニュース

唾液で健康診断、オール山形で実用化へ向けて一歩前進

社団法人山形県歯科医師会(石黒慶一会長)(以下、県歯科医師会)と慶應義塾大学先端生命科学研究所(山形県鶴岡市、冨田勝所長)(以下、慶大先端研)は、唾液による健康診断を山形県において世界に先駆けて実用化するために、勉強会を立ち上げます。

慶大先端研は2010 年6 月に米国のカリフォルニア大学と共同で、唾液の成分から口腔がん、乳がん、すい臓がんを発見する技術を開発しました。合計215 人の唾液サンプルを、慶大先端研が世界に先駆けて開発した「キャピラリー電気泳動-質量分析計(CE-MS)」を用いて網羅的に解析した結果、検出された 約500 種類の代謝物のうち、54 物質にがん患者と健常者の間で大きな違いがあることが判明しました。この54 物質を分析することで、口腔がんで80%、乳がんで95%、すい臓がんで99%と、高精度で見分けられることがわかりました。


今後 はこの技術を様々な疾病の診断に応用し、「唾液で健康診断」という身体的負担の少ない画期的な方法を実用化し、予防医学の発展に寄与したいと考えていま す。唾液による健康診断を実用化して広く普及するためにはまだまだ多くの課題が山積みです。10 年後の実用化・普及を目指して本勉強会では以下の課題に取り組みます。

県歯科医師会の課題

県歯科医師会は、唾液による健康診断を実用化すべく、臨床家として慶大先端研の研究の下記の項目に協力をする。

  1. 唾液診断マーカーの探索のためのサンプル収集に協力する。
    口腔がんや歯周病など、通常歯科で扱う疾病について、唾液サンプルを収集する。
  2. 唾液採取方法の開発と改良に協力する。
    唾液による健康診断のためには、唾液を1ml 程度採取する必要がある。被検診者に最小限の負担で効率よく迅速に採取する手法や器材の開発に協力する。
  3. 被検診者とのコミュニケーション法を検討する。
    唾液採取前のインフォームドコンセントや、分析結果の説明を被検診者に対してどのように行うかを検討する。
  4. 医科病院との連携体制を整える。
    歯科分野以外の疾病の可能性を示唆する検診結果が出た場合、スムーズに医科病院を紹介することによって、遅延なく精密検査を行い必要に応じて治療を開始する体制を整える。
  5. 唾液の健康診断の普及体制を整える。
    唾液の健康診断をひろく普及させるためには、健康保険が適用されることが重要である。そのために必要な情報を収集する。
  6. 個人情報の保護・管理システムを整える。
    被検診者の唾液サンプルと検診結果などは、本人の同意を得たうえで、データベースを構築し、更なる正確な検診のために役立てる。 その際の個人情報を保護するためのシステムを構築する。

慶大先端研の課題

  1. 唾液の分析方法の開発と改良
    最新の質量分析装置を用いて分析精度と感度を向上させる。また、サンプルの前処理方法を改良し、簡便かつ正確な分析方法を開発する。
  2. 唾液サンプルの保存方法の改良
    現在、唾液サンプルは遠心機で除蛋白処理をした後にマイナス80 度で保存しているが、より室温に近い温度で簡便に保存した場合の成分変化を解析し、実用的な保存方法を開発する。
  3. 唾液の分析結果の統計解析
    唾液サンプルの分析結果を過去のデータベースと照合し、各疾病のリスクを計算する統計手法を開発する。

 県歯科医師会の石黒会長は「我々にとって身近な『唾液』が健康診断に応用できればという夢の実現に向って、山形県歯科医師会として協力したい。」とコメントしています。

 慶大先端研の冨田所長は「唾液による健康診断は全人類の夢です。この夢の技術の実用化に向けて、山形県から世界へ発信していきたい。」とコメントしています。

  このニュースは下記のメディアで報道されました。

  • 山形新聞 11/2
  • 朝日新聞 11/2
  • 荘内日報 11/3 1面トップ

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