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がん細胞の死滅を促進する標的分子の予測に成功

慶應義塾大学先端生命科学研究所の大学院生ヴィンセント・ピラス君(政策・メディア研究科博士課程)、林謙太郎君(同博士課程)、及びクマール・セ ルバラジュ特任講師らの研究グループは、がん細胞の死滅を促進する標的分子の存在の予測に成功しました。この研究内容は、英国科学専門誌 「Scientific Reports」11月7日版に発表されました。(http://www.nature.com/srep/2011/111107/srep00144/full/srep00144.html

1.研究内容
研究グループは、自然界に存在する物理法則とコンピュータを用いたシミュレーションモデルを使う事によって、がん細胞の死滅を促進する標的分子の存在を予測しました。
長 年科学者たちは、生体内の免疫システムで作られ、がん細胞を特異的に攻撃するTRAILという分子に注目してきました。しかしながら、多くのがん腫では、 TRAILが引き金となって誘導されるがん細胞の死滅への情報伝達(アポトーシスシグナル)を、細胞生存のシグナル(=情報伝達)へと切り換えてしまう事 ができるため、これまでTRAILを用いた治療法が成功したケースはありませんでした。研究グループでは、今回新たに開発した手法を用いて、がん細胞の生 存を抑制する方法とがん細胞の死滅を促進する方法の2つの観点から研究を進めました。その結果、がん細胞の生存の状態から死滅を促進するスイッチとなるよ うな新たな標的分子の存在を予測しました。本手法は、物理法則に基づいた新規手法であり、TRAILに限らず、どのようなシグナルにおいても汎用的に用い る事ができます。

2.研究の成果
ピラス君と林君は、「細胞生存と細胞死に関わる分子を正確にシミュレーションできるようになりまし た。我々が知る限り、複数の実験条件を一つの計算モデルでシミュレートすることができたのは今回が初めてです。」と説明しています。また研究グループリー ダーであるセルバラジュ特任講師は、次のように考察しています。「生物学的な問題に対して自然の法則を利用する事は、がんや炎症などの複雑な病気の理解と 治療に革命をもたらすかもしれません。」
今回の研究成果により、多種のがん細胞を死滅させる治療への貢献が期待できます。


原 著論文:Vincent Piras, Kentaro Hayashi, Masaru Tomita, and Kumar Selvarajoo. "Enhancing apoptosis in TRAIL-resistant cancer cells using fundamental response rules"
http://www.nature.com/srep/2011/111107/srep00144/full/srep00144.html

今 回の研究成果について、冨田所長は「かねてより独自に開発してきたコンピュータシミュレーション技術を駆使して、がん治療のターゲットを予測することがで きました。同様の方法で将来様々な病気の治療ターゲットを予測することも可能になると考えています。」とコメントしています。
研究担当者であるヴィンセント・ピラス君、林謙太郎君、クマール・セルバラジュ特任講師のコメント、及び国内外の第三者の専門家からのコメントは、Science Media Centre of Japan(http://smc-japan.org/?p=2428)からもご覧になれます。

このニュースは下記のメディアで報道されました。

  • 山形新聞 11/25(金) 26面
  • 荘内日報 11/27(日) 2面
  • 読売新聞 11/29(火) 32面

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