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オイル産生藻類「シュードコリシスティス」が オイルを作るしくみを詳細に解析

慶應義塾大学先端生命科学研究所(山形県鶴岡市、所長:冨田勝)の伊藤卓朗研究員らを中心とした研究グループは、株式会社デンソー(愛知県刈谷市、社長:加藤宣明)との共同研究において、オイル産生藻類 "シュードコリシスティス・エリプソイデア"がオイルを作るしくみを詳細に解析し、その研究成果が国際メタボローム学会誌「Metabolomics」オンライン版に掲載されました。

オイル産生藻類注1は光合成によって環境中の二酸化炭素からオイル(脂質)を合成する能力を持っている事から、次世代バイオ燃料への利用が期待されていますが、そのしくみは殆どわかっていません。そのためオイルを蓄積する際の代謝注2制御機構を明らかにすることが、生産効率の向上や品種改良に役立つと考えられます。伊藤卓朗研究員を中心とした慶應義塾大学先端生命科学研究所(山形県鶴岡市、所長:冨田勝)の研究グループは株式会社デンソー(愛知県刈谷市、社長:加藤宣明)と共同で、オイル産生藻類 "シュードコリシスティス・エリプソイデア"("Pseudochoricystis ellipsoidea";以下「シュードコリシスティス」) を将来有望な藻類として研究しています。シュードコリシスティスは、周囲の窒素栄養源が不足すると細胞内に軽油相当のオイルを蓄積することが知られています。

今回の論文では、シュードコリシスティスに窒素を与えずに培養した場合に、細胞内部の様子がどのように変化するのかを、顕微鏡観察技術とメタボローム解析技術注3を用いて調べました。

光学顕微鏡および電子顕微鏡を用いた観察の結果、窒素栄養が不足した際には細胞や細胞内の構造(葉緑体など)が小さくなる一方で、オイルの他にデンプンも蓄積している事が分かりました。また、メタボローム解析によって 300以 上の代謝物質の量を比較した結果、窒素栄養が不足すると代謝物質の約半数が減少し、中でも窒素を含んだ代謝物質(アミノ酸など)が顕著に減少することがわ かりました。さらにオイルの組成も変化しており、細胞の活動に関わるオイル(葉緑体の膜を作る脂質など)が減少し,代わりに燃料源として期待される中性脂 質が大幅に増加することが明らかとなりました。

本研究成果は国際メタボローム学会誌「メタボロミクス( Metabolomics )」のオンライン版 に掲載されました。

こ れらの成果により、これまで知見の少なかったシュードコリシスティスの細胞が、窒素栄養の欠乏によってどのように変化するのかの詳細、特にオイルの蓄積に 伴う細胞内の変化を明らかにすることができました。今後、これらの変化を手がかりにオイルを蓄積する代謝制御機構の解明を進めていきます。

 冨田所長は「藻からオイルを産生する研究は現在世界中の様々な研究機関で行われるようになりましたが、私たちの研究は、彼らと競合するのではなく、彼らすべてに貢献する成果だと自負しています。」とコメントしています。

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【用語解説】

注1オイル産生藻類:細胞内に多量のオイルを蓄積する藻類。

注2代謝:生命活動に必要な物質やエネルギーを獲得する化学反応のこと。代謝の過程で合成や分解される物質を代謝物質と呼ぶ。

注3メタボローム解析技術:多数(数百~)の代謝物質を一度に測定する技術。先端生命科学研究所では、キャピラリー電気泳動-質量分析計を用いた方法を世界で初めて開発した。

【発表雑誌】

雑誌名
国際メタボローム学会誌「メタボロミクス(Metabolomics)」印刷中(オンライン版に2012年9月29日より掲載済み)

論文タイトル
Metabolic and morphological changes of an oil accumulating trebouxiophycean alga in nitrogen-deficient conditions

著者および所属
伊藤 卓朗a,b,c、田中 美穂a,b、新川 はるかa,b、仲田 崇志a,b、阿野 嘉孝d、藏野 憲秀d、曽我 朋義a,b,e、冨田 勝a,b,e
a慶應義塾大学先端生命科学研究所
b慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 先端生命科学プログラム
c科学技術振興機構 さきがけ
d株式会社デンソー基礎研究所
e慶應義塾大学環境情報学部

DOI番号
10.1007/s11306-012-0463-z

URL
http://www.springerlink.com/content/bl1628w44337258t/

この研究に関連する研究機関および研究支援制度

本研究は、慶應義塾大学先端生命科学研究所と株式会社デンソーの共同研究として行われました。本研究は、山形県および鶴岡市の支援のもと行われました。また、本研究の一部は、JST 戦 略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」研究領域(研究総 括:松永是 東京農工大学 学長)における研究課題「微細藻におけるオイル産生代謝機構の解明」(研究者:伊藤卓朗)、および、JST 地域イノベーション創出総合支援事業重点地域研究開発推進プログラム平成19年度シーズ発掘試験「新規緑藻によるバイオ燃料向け脂肪酸誘導体の生産効率向上に関わる培養条件検討」(研究者:伊藤卓朗)の支援のもと行われました。

このニュースは下記のメディアで報道されました。

荘内日報 10/19

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