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NASA研究員と研究連携開始

アメリカ航空宇宙局(National Aeronautics and Space Administration 以下、NASA)エイムズ研究所と、慶應義塾大学先端生命科学研究所(IAB、山形県鶴岡市)の研究員は、宇宙線耐性メカニズム解明のための研究連携を開始しまし た。

ヒトの細胞は、宇宙線や紫外線といった、高エネルギーの放射線を大量に受けるとDNAなどの重要な分子が壊され、がん化したり、細胞そのものが死ん でしまうことがわかっています。一方で自然の環境中には高レベルの放射線や紫外線を照射しても死なない生物がいることが知られています。その耐性メカニズ ムは多様で、まだ解明されていない部分が多くあります。


NASAエイムズ研究所のロスチャイルド博士の研究グループは、世界で最も 乾燥しているアタカマ砂漠などから数種類の紫外線耐性菌を新たに発見しています。これらの菌は、病原性がない人畜無害の土壌微生物ですが、高レベルの紫外 線を照射しても死にません。さらに驚くべきことに,ある細菌はギネスブックにも掲載されている最も放射線に強い細菌「デイノコッカス」よりも生存率が高い ことがわかりました。

これらの細菌はそれぞれ特殊な色素を持っており、その色素をなくした菌は紫外線耐性を失うことが明らかになっていま す。人間の肌もメラニン色素を合成して紫外線をブロックしていることからも、これらの細菌が作る未知の色素が紫外線耐性に重要な役割を果たしていることが 示唆されています。
そこでNASAは、その色素の組成や合成のメカニズムを解明するために、世界トップレベルの分析技術を持つIABに共同研究を 打診し、ロスチャイルド教授と冨田所長が合意して、今回の共同研究が実現しました。このたび、ロスチャイルド博士が来日し、11月16日、鶴岡市でこの共 同研究開始に関する記者会見を行うこととなりました。

IABは先端的なメタボローム技術を駆使して特に耐性能が高かった2種類の菌に関する 紫外線耐性メカニズムを解析します。 菌を培養したのち、紫外線を照射する前後で変化する代謝物を網羅的に測定し、目的の色素及びその生合成経路を明らかにします。これらの菌に病原性がないこ とはNASAにて確認済です。

NASAが将来的に目指している長期の有人探査計画では、高エネルギーの宇宙線から人体をいかに守るかが重要視されています。今回の共同研究で得られた成果は、のちの宇宙ミッションに有効利用されることが期待されます。

冨 田所長は「人間は紫外線や放射線に脆弱な生物ですが、今回の共同研究を通じて紫外線から細胞を守るメカニズムが明らかになれば、有人宇宙ミッションのみな らず、地球上の人間を有害な宇宙線や放射線から守るためのヒントが得られるのではないかと期待しています 」とコメントしています。


(プロジェクト担当者:日本側=先端生命科学研究所 冨田勝所長、曽我朋義教授、池田和貴特任助教
米国側=NASAエイムズ研究所のLynn Rothschild(リン・ロスチャイルド)教授、Ivan Lima(イバン・リマ)研究員)

用語解説
「NASAエイムズ研究所」
エイムズ研究所の研究分野は、航空工学、生物学、宇宙科学と、宇宙開発技術研究の一環として情報技術、特に機械学習と人工知能などである。世界最大の風洞があり、実際の大きさの航空機を試験可能である。
エ イムズ研究センターは、(月面衝突実験機LCROSS, 飛行天文台SOFIA, 陽系外惑星探査機KEPLER)といった代表的なNASAのいくつかのミッションのセンターとしても機能している。また、生命の起源や地球外生命探査に関 する研究を行っているNASAの宇宙生物学部門の本部が設置されている。
一方で大学との共同研究のための施設もある。ここで共同研究を行っている大学としては、カーネギーメロン大学ウェストコースト校、カリフォルニア大学サンタクルーズ校、サンノゼ州立大学がある。現在の研究員は約2300名、年間予算は約500億円。

「宇宙線」
宇 宙空間を飛び交う高エネルギーの放射線のことで、主な成分は陽子であり、アルファ粒子、リチウム、ベリリウム、ホウ素、鉄などの原子核が含まれている。大 きく分けると、太陽系外から超新星爆発などによって加速されて飛んできた「銀河宇宙線」と、太陽風や太陽フレア粒子などの「太陽宇宙線」がある。宇宙線 は、人体や機器に大きな支障をもたらすことが知られており、特に、人体への影響は累積効果なため、宇宙に長期滞在する宇宙飛行士には累積可能な数値目標が 設定されている。

このニュースは下記メディアで報道されました。

  • 山形新聞 11/16 
  • さくらんぼTV SAYスーパーニュース 11/16
  • NHK ウィークエンド東北 11/17
  • 荘内日報 11/18

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