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唾液中代謝物の人工知能(AI)解析によって乳がんを検出する方法を開発

慶應義塾大学先端生命科学研究所特任教授の杉本昌弘は、帝京大学医学部外科学講座教授の神野浩光、慶應義塾大学医学部外科学(一般・消化器)専任講師の林田哲らとの共同研究により、唾液のメタボローム解析と人工知能を使って、高精度に乳がん患者を検出する方法を開発しました。

【本研究の概要と意義】
杉本特任教授らの研究グループは、生体内の代謝物を一斉に測定して定量するメタボローム解析(注1)という技術を利用し、唾液を用いた疾患検出の可能性を研究してきました。浸潤性乳がん(invasive carcinoma, IC群)101症例、非浸潤性乳がん(ductal carcinoma in situ, DCIS群)23症例、健常者(healthy control, HC群)42症例、合計166の唾液検体を収集し、メタボローム解析を実施しました。メタボローム解析においては、1つの測定方法では測定できる物質数に限界があるため、キャピラリー電気泳動・飛行時間型質量分析装置と液体クロマトグラフィー・三連四重型質量分析装置(注2)の両装置を利用してできるだけ多くの水溶性代謝物を測定しました。
解析の結果、唾液中から260種類もの物質が定量でき、そのうちの約30物質は各群の間で濃度に違いがあることが統計的な評価によって明らかになりました。また、IC群において、代謝物の一種であるポリアミン類(注3)などの濃度がHC群と比較して高い一方、DCIS群ではこれらの物質の濃度の上昇はみられず、HC群と濃度が変動しないことも判明しました。さらに、このうちIC群とHC群の間をもっとも高精度に識別する物質は、ROC曲線(注4)以下の面積において0.766 (95%信頼区間; 0.671-0.840) という精度を出しましたが、これらの物質群の濃度パターンを人工知能(注5)に学習させたところ、0.919 (95% CI信頼区間; 0.838-0.961)にまで精度を向上させることに成功しました。
唾液の解析のみでこれほど高精度に乳健常者から乳がんを識別できることは、新しい検査方法として極めて有望であると考えられます。今後、より大規模な症例での検証は必要ですが、他の疾患との比較なども含めてさらなる精度向上を目指すとともに、より低コストな測定方法の開発を進めていきます。

プレスリリースはこちらをご覧ください。
(用語解説もプレスリリースをご覧ください)

このニュースは下記のメディアで報道されました。
・8/1 山形新聞 25面


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